本の紹介

大和田順子『アグリ・コミュニティビジネス〜農山村力×交流力でつむぐ幸せな社会』(1)

今、輝いている人々 昨年末に出版した関満博さんの『「農」と「食」のフロンティア』は、中山間地の人々自身が産業化と自立で輝いていることに注目した本だが、こちらは中山間地にIターン、Uターンした人たちの輝きに注目した本だ。 関さんがはじめて農産物…

松浦晃一郎著『世界遺産〜ユネスコ事務局長は訴える』

佐藤滋さんの『まちづくり市民事業』、さすがに続けすぎというので、今日は別の話題にしよう。 これは、前ユネスコ事務局長の松浦さんが在職当時に書いた本だ。 世界遺産の考え方を知るには佐滝剛弘さんの『「世界遺産」の真実---過剰な期待、大いなる誤解 …

足立基治『シャッター通り再生計画』(3)

観光による活性化 取り上げられたこれらの事例は、県庁所在地を除くと観光で著名な街だ。 豊後高田と長浜、温泉町でもある鳴子町や輪島市はもちろん、八戸もみろく横丁やB級グルメ、市場など食旅で注目されている。 確かに観光は大きな要素だと明言されてい…

足立基治『シャッター通り再生計画』(2)

12月9日に紹介した本をようやく読み終えた。 足立さんは和歌山大学経済学部の先生で、和歌山市で中心市街地活性化に取り組み、オープンカフェやレンタルカフェの試みを成功させた人だ。 その再生計画の枠組みは三つのSにある。 三つのS 第一のSはセンチ…

徳野貞雄『農村の幸せ、都会の幸せ』(3)

農山村の根本問題 どうも田舎にはまだ「跡継ぎは男の子だから」という意識が強いらしい。だが、東京に住んでいる長男などなんの役にも立たない。夫婦別姓のところでも触れたが、まず、家を長男が継ぐという近代以降の観念を捨て、ずーと長い伝統がある柔軟な…

徳野貞雄『農村の幸せ、都会の幸せ』(2)

『撤退の農村計画』を巡っても、農山村の定住意向が強いことが話題になっていた。 身体が元気な内は問題ないのだが、動かなくなったら困る。そのとき、頼りにされているのは、やはり子供だという。しかしその子供がいつ帰って来るのかは分からない。 そこで…

徳野貞雄『農村の幸せ、都会の幸せ』(1)

今の日本は1500年間続いた「自分の食は自分でつくる」という安定した暮らしが変わってしまい、不安に駆られているのではないか、という時間的スケールの大きな問いかけから始まる真面目な本だ。 だから、この本のごく一部なのだが、花嫁作戦の話が面白かった…

井田徹治『生物多様性とは何か』(4)

多様性とどうつき合うか 最初に書いたように、人間による自然破壊から保護区を設けて生物多様性を守ろうというのには大賛成だ。『生物多様性とは何か』には、貨幣価値に換算してどうなるとか、保護区を設けたほうがかえって漁獲高が増えるとか、いろいろと書…

井田徹治『生物多様性とは何か』(3)

生物多様性の保全とエコツーリズム このような生物多様性の危機に対して、さまざまな取り組みがなされている。 国家レベルで国益をかけた闘いが行われているのはCOP10でも垣間見えたところだ。 一方では、地域から、地道に取り組まれている事例もある。 この…

井田徹治『生物多様性とは何か』(2)

生物多様性の重要性 もちろん、1千万〜1億とも言われる生物種のなかには、いまは知られていなくても、将来とても有用になるものがあるかもしれない。生物種がガンガン減ってしまえば、その可能性は少なくなる。 また環境の激変があったとき、生き残るために…

井田徹治『生物多様性とは何か』(1)

生物多様性条約締約国会議が名古屋で開かれたので、僕たちも林まゆみさんの『生物多様性をめざすまちづくり』を出し、セミナーも開いた。 だが、正確には知らないぞ、というわけで読んでみた。 生物多様性と生態系サービス 生物多様性の重要性については、生…

足立基浩『シャッター通り商店街』

「懐かしさを行動に変えれば、活気を取り戻せる」と帯にうたわれた本。経済学者が書いた「明日からはじめる活性化の極意」なのだそうだ。 まだ読み始めたばっかりなのだが、ちょっと面白い話が載っていたので紹介したい。 11ページで足立さんは、イギリス…

田坂広志『目に見えない資本主義』

はっきり言って、とても軽い本。 一番すごいところは1ページ16行のうち、なんと7行も1行アキをとっている。 それに、内容も軽い。 単純に言えば貨幣価値オンリーの時代が終わり、見えない価値が大切になる。実は日本的経営こそ、見えない価値を大切にし…

『地域開発』「リニア中央新幹線と地域開発」

今月号の『地域開発』の特集はリニア新幹線だ。 ちょうど東北新幹線が1971年の着工から約40年をへて全線開通した時に、35年後の完成を目指すリニア新幹線を取り上げるのは、なかなか洒落ている。 そのうえ中央新幹線の基本計画が策定されたのは1973年だと…

佐藤由美「食のまちづくり〜小浜発!おいしい地域力」

「私はこの年になるまで、ここがいいところだとか、食べているものがいいものだと思ったことはなかった。お客さんからここがいいところだといわれて初めて、ほんまやなあ、いいところやなあと思い、野菜がおいしいといわれて初めて、ほんまやなあ、おいしい…

広井良典『持続可能な福祉社会』(3)

今日も、広井さんの本を紹介しよう。 関係性のハードとしての都市景観 広井さんは日本の農村地域にはそれなりの景観あるいは秩序があるのに、都市景観がこうまで醜いのは、「農村から都市に移ってきた日本人は、そこでは周りは自分にとってまったくなじみの…

広井良典『持続可能な福祉社会』(2)

引き続き、広井さんの本を紹介しよう。 人と人の関係性の再構築 そして、もうひとつは人と人の関係性の再構築である。 「日本人ないし日本社会は(“稲作の遺伝子”が支配する)農村型(ムラ社会)の関係性から、個人をベースとした、また見知らぬ個人同士が様…

広井良典『持続可能な福祉社会』(1)

広井さんの本は実にエキサイティングだ。 本書は、限りなき成長という時代が終わった今、どんな社会のかたちを目指すかを大胆に提言している。 人生前半の社会保障 その一つの柱は、社会保障を高齢期を中心に考えるのではなく、人生前半の教育や雇用にまで広…

稲葉佳子「多様性を体現するまち・新宿大久保」(2)

昨日は大久保の多様性を語ったが、今日は日本の街の衰退と多様性の喪失を絡めて考えてみよう。 都合のよい多様性だけを考えるのは間違い 稲葉さんは、都市論でも多様性が注目されているが、それは理想的な多様性(というか、都合の良い多様性)に過ぎないの…

稲葉佳子「多様性を体現するまち・新宿大久保」(1)

多様性を包容する街オオクボ これは『オオクボ 都市の力』を書かれた稲葉佳子さんが多様性を特集した『世界思想』(2010年春号、世界思想社)に寄せられた論文だ。 まず大久保は一丁目の町会長が「国勢調査で回った印象では6割は外国人」と言うように、多文…

関満博『現場主義の知的生産法』(2)

『書籍』は社会へのラブレター もちろん、関さんの『現場主義の知的生産法』には、もっと納得しやすい話もいっぱい書いてある。 特に、「地元に響かない「業績」などに目をうばわれず、地元を「愛し続ける」という態度を身につけることが求められていくので…

関満博『現場主義の知的生産法』(1)

関さんの整理術は整理しないこと この10月に社内引っ越しをした。 とてもたくさんのゴミが出たことは10月14日に書いたが、そのゴミの多くをため込んでいたのはY氏とM女史だ。 彼等は、机の周りに幾重ものゴミの城壁を築き、狭くない机の筈なのに、谷底のよ…

波頭亮『成熟日本への進路』(2)

社会保障と市場メカニズムの両立 高福祉になり、負担率が高くなると、馬鹿らしくて誰も一生懸命働かなくなるという人がいる。 たしかに誰もが「24時間、戦っています」みたいな社会ではなくなるだろうが、だからといってサボリまくるかというと、そうではな…

波頭亮『成熟日本への進路』(1)

成長は終わった 本書の主張の第一は、成長の時代はもう日本では終わったのだということだ。それを成長をもたらす三つの因子、労働、資本、技術のそれぞれについて検証している。 第一の労働については労働人口の減少が効いてくる。第二の資本についても、貯…

太田肇『「見せかけの勤勉」の正体』(2)

成果主義が成り立つのは単純労働の世界? とはいえ、もう少し余計なことに気を取られることをセーブできたら、もっとチャカチャカ仕事は進むだろう。 だが、これは本人だから分かることであって、外から見抜くのは容易ではないだろうと思う。まして、単にダ…

太田肇『「見せかけの勤勉」の正体』(1)

ビジネス書はあまり読まないが、タイトルにひかれて買ってしまった。 無茶苦茶、面白いというか、とんでもない例も紹介されていた。 管理強化の行き着く先 この10年ほど、成果主義による管理強化が流行っていて、挙げ句の果て、「社員が外部にファックスを送…

疋田智『快適自転車ライフ』

疋田智さんの『快適自転車ライフ』(岩波アクティブ文庫)を読んだ。 初版は8年前の2002年。『自転車通勤で行こう』(1999年)から3年目に書かれた比較的古い本だ。 内容は、まず「第1章 ママチャリに乗って冒険に出かけよう」で自転車が意外と遠くまで簡…

世古一穂『コミュニティ・レストラン』(2)

コミュニティ・カフェとの違い なんでもありのコミュニティ・カフェ コミレスに似ている運動にコミュニティ・カフェがある。 長寿社会文化協会(WAC)が力を入れている運動で、WAC編の『コミュニティ・カフェを作ろう』(学陽書房、2007)によると、「『人と…

世古一穂『コミュニティ・レストラン』(1)

世古一穂さんのコミュニティレストランの講演が、家の近くのYWCAであった。 その後、世古さんの『コミュニティ・レストラン』(日本評論社、2007)も読んだので、併せて紹介しよう。 コミュニティ・レストランとは コミュニティ・レストラン、略してコミレス…

林直樹、齋藤晋編著『撤退の農村計画』(3)

跡地管理の方法 撤退した後、あるいは結果的に集落が消えてしまった後、その土地をどう管理するかが大問題だ。 どんな問題があり、どんな対策があるのか、『撤退の農村計画』から幾つか紹介しよう。 放棄地、所有者不明の土地 都市計画の改革の議論でも、管…