世古一穂『コミュニティ・レストラン』(2)
コミュニティ・カフェとの違い
なんでもありのコミュニティ・カフェ
コミレスに似ている運動にコミュニティ・カフェがある。
長寿社会文化協会(WAC)が力を入れている運動で、WAC編の『コミュニティ・カフェを作ろう』(学陽書房、2007)によると、「『人と人がつながることを大事にする、行くとほっとできる場所づくり』を総称して『コミュニティ・カフェ』と」定義されている。
『コミュニティ・カフェを作ろう』に紹介されている事例は、気合いが入ったものが多く、ほとんどがオーガニック重視だが、昔からのご近所の行きつけの店も、コミュニティ・カフェに入るという姿勢だ。
エコクッキングだけには最後まで拘る
コミュニティレストランをビジネスとして成り立たせるには、最低でも16〜20席程度を確保し、昼2回転、夜2回転が必要だという。
また、平均単価も、ボランティアなら300円でも良いが、ビジネスとして成り立たせるには1000円は必要だ。
エコクッキングを目ざしているため、コミレスの食材の原価は高い。
ファミレスなら15%、町なかのまともなメシ屋でも25%にたいして、コミレスは40%も珍しくない。
たとえば色々な社会運動のなかで生まれているコミレス的なレストランやカフェには、冷凍食品に頼っているところもあるが、レストランである以上、人の身体に良いものを出さなければダメ、というのが世古さんの拘りだ。
「チャングムの誓い」みたいな世界だ。
糖尿病の中国のエライさんで、チャングムの高い志のために精進料理を食べさせられた人は、帰ってからも正しい食事を続けたのだろうか?。やっぱり美食の誘惑に負けた?。それとも体に良い物しかたべなくなった?
かくいう僕は、コンビニの脂っこいお菓子から離れられない・・・。
コミレスを開くには
こういった小さな飲食店を開く場合のノウハウは、さきほどの『コミュニティ・カフェを作ろう』に詳しいが、ここでは世古さん流の所を紹介する。
協働コーディネータが必須の役割
コミレスは調理師等の資格がなくても、食品衛生管理者がいれば開業することができる。
この資格は一日講習を受ければとれるので、容易だ。
しかし、農業者との繋がりをつくり、シェフを集め、様々なイベントを仕掛けたり、ご近所との繋がりをつくっていくには、協働コーディネータ(ないし、その技量がある人)が必要だという。
コミレス成功の絶対条件
さて、こういうコミレスなら挑戦してみようという人に、気をつけてもらいたいことがある。世古さんによると「コミレスは、おいしくなくてはダメ」なのだそうだ。
もちろん、自分は協働コーディネータになって厨房に入らないという手もある。そのかわり、やはりおいしい料理をつくれるシェフが勝負所となる。
そういう意味では、ボランティアであろうが、ビジネスであろうが、思いだけではダメ。自分が料理が好き、家族がおいしいと言ってくれるレベルではなく、毎日食べに来てくれる様々な好み、食感の人たちを満足させなければならない。
ちなみに、成功しているコミレスとして有名な「でめてる」は、玄米がおいしいと評判だそうだ。
やはり世の中の厳しい。
世古さんの本
以下は世古さんの代表的な著作。
1)『市民参加のデザイン』は出世作というか、市民参加が流行り出した頃に参加の手法や実践例も含めて書かれ、大いに参考にされた本だ。おそらく、まちづくり業界ではこの本で世古さんの名前を知った人が多いだろう。
2)『協働のデザイン』は1)の2年後に僕たちの手で出させてもらったもの。1)と重なりつつも、協働という新しい言葉をメインに組み立てた。これも、勢いがあった。
3)『協働コーディネーター』はずっと新しく、2007年に協働コーディネーター論を仲間と一緒にまとめなおされたもの。4)『参加と協働のデザイン』は2)の続編として僕たちが出させていただいたものだが、正直3)との違いが今ひとつ明確に出し切れなかった。
今から思えば、帯には書いてあるのだが、NPOの下請け化といった流れを受けて、協働を再考するするという姿勢に徹するべきだった。それではマニアックで、読者が限られる、という僕の不安が、中途半端なものにしてしまったような気がする。
ところで今、一番売れているのは、5)『挑戦する酒蔵』のようだ。世古さんの趣味と実益を兼ねたようなテーマで、書店はもちろん、まとめて買ってくださる酒蔵もあって、5000部とか1万部を売ったと聞いた。
そして6)『マスメディア 再生への戦略』がもっとも新しいテーマへの取り組み、第一作だ。
1)世古一穂著『市民参加のデザイン―市民・行政・企業・NPOの協働の時代』(ぎょうせい、1999)
2)世古一穂著『協働のデザイン―パートナーシップを拓く仕組みづくり、人づくり』(学芸出版社、2001)
3)世古一穂編著『協働コーディネーター―参加協働型社会を拓く新しい職能』(ぎょうせい、2007)
4)世古一穂編著『参加と協働のデザイン―NPO・行政・企業の役割を再考する』(2009)
5)酒蔵環境研究会編、世古一穂ほか著『挑戦する酒蔵―本物の日本酒をもとめて』(農山漁村文化協会 、2007)
6)世古一穂、土田修著『マスメディア 再生への戦略』(明石書店、2009)