世古一穂『コミュニティ・レストラン』(1)


 世古一穂さんのコミュニティレストランの講演が、家の近くのYWCAであった。
 その後、世古さんの『コミュニティ・レストラン』(日本評論社、2007)も読んだので、併せて紹介しよう。

コミュニティ・レストランとは

 コミュニティ・レストラン、略してコミレスとは、「楽しく働き、おいしく食べる、くつろぎの場」である。
 だが、それだけだったら、個人経営のレストランやカフェにも可能性はある。実際、かつては溜り場的な軽食が出る喫茶店がたくさんあった。
 それらがダメだと言うわけではないだろうが、世古さんが商標登録してまで守ろうとしているのは、次の五つの機能と実践だ。

五つの機能

 コミュニティ・レストランは次の五つの機能を包含していなければならない。どれに力点をおくかは様ざまだが、どれかを等閑視したものは世古さんはコミレスではないという。
  1)人材養成機能
  2)生活支援センター機能
  3)自立生活支援機能
  4)コミュニティ・センター機能
  5)循環型まちづくり機能

五つの実践

 またコミレスは次の五つの実践のうち一つ以上を行っている、または行おうとしていなければならない。
  1)地産地消を目ざす
  2)健康づくりを応援する
  3)地域の食卓・地域の居間を目ざす
  4)誰でも安心して利用できることを目ざす
  5)循環型社会づくりに取り組む

食と調理の考え方

 上記のような機能、実践から、食と調理については、エコクッキングに拘る。
 すなわち「地産地消」「身土不二」「旬産旬食」「一物全体」をもとに、循環型社会の一つのライフスタイルをつくっていくことだ。

コミレスの考え方

 世古さんがコミレスに最初に取り組んだのは30年前。子育てのときに、安全安心なものを食べるにはどうしたら良いかを悩んだ。地に足がついた暮らしをし、地域で子どもを育てたいとも思った。そして、地域で女性の仕事場をつくろうと考えた。


 そういうものがないのなら、自分たちでつくってしまえ、と私募債で300人から500万円を集めた。そうして始めたのがコミレス「でめてる」だという。


 五つの機能、五つの実践と、言葉で言われるとイメージがわきにくいが、大きく分ければ、1)地域のなかで人と人が出会え、支え合える場をつくる、2)地域のなかで女性の就業の場をつくる、3)エコクッキングを実践する場をつくる、の三つにまとめられそうだ。

支え合うということ、自ら支えるということ

 世古さんは、セルジュ・ラトゥーシュさんの「脱成長」という考え方を紹介し、9時から5時まで、オフィスにいてコンピュータと睨めっこをしているというのが、おかしいのではないか、と言われる。


 今、求められているのは、いわば働き方、考え方を変えるということ。
 たとえば精神障害者なら、週3日でもいいんじゃないか。障害者ばかりが集まると、それをお世話する人のペイだけで終わってしまう。手当をするという考え方に問題はないか。
 自分たちが暮らしていけるのであれば、それで良いと考えるなら、週3日しか働かないと目くじらを立てることはない。


 またアルツハイマー精神障害者の人は、何も出来ない、出来ても半人前と思っているとしたら、それは違う。
 野菜の切り方がとても上手な人もいる。自閉症の人は、同じものをたくさんつくるのが得意なことが多い。


 一方、支え合う場をつくるということは、自分で食べていくだけの仕事を自らつくり出すということにも繋がっている。


 大学も63歳で定年とか、私大は70歳定年とかで、しがみついている方も多いが、私(世古)はきっぱり止めた。ポストが増える成長時代ではないので、早く退職しないと次の世代のためのポストがあかない。さっさと退職して、地域のことをやるのも良いのではないか。
 だいいち、文部省に自分の定年後のことを決められてたまるか、とのことだった。


 なお、コミレスは誰もが気軽に立ち寄れる場を目ざすので空間的にもユニバーサルでなければならないし、社会的・経済的な配慮もいる。
 また空間的なバリアフリーは大切だが、そのために整備に拘りすぎるのも考え物だ。車いすの人がきたら、よいしょっと上げることが気軽に出来る、心のバリアフリーが大切なのではないか。


 なお、気軽にが常に普段着で、気兼ねなくとは限らない。
 高齢者がちょっとお洒落をして来る場であっても良い。

食のリテラシー

 食育が盛んに言われているが、たとえば30品目の野菜を食べるのが良いなど、外形に拘りすぎではないか。そんな食事をしようと思ったら、デパ地下で野菜30品目パックでも買ってくるしかない。
 そうではなくて、1年を通して旬の野菜を食べていたら、自然とバランスがとれた野菜をとることができる。旬のものを丸ごといただくというのが大切だ。
 だから牛は1頭利用ができないから使わない。魚は小魚、鳥もまるごと食べてしまう。
 そしてまた、食べると言うことを通して、地域資源を活用していく。地域の農業者の人と直接の関係をつくり、また地域の食文化を継承していくことが大事だ、とのことだった。

京都YWCAでも始めるかも


 講演会の最後にYWCAの人が挨拶していたが、敷地の奥まったところにあるヴォーリス設計のサマリア館をつかってコミュニティ・レストランを開きたい、開けないか検討中とのことだった。
 家から比較的近いし、なんといってもYWCAだから、高級路線ではなくて、300円とか500円で結構美味しいものを食べさせてくれるのではないか。

 ついつい、期待してしまう。

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・世古一穂編著『コミュニティ・レストラン』(日本評論社、2007)