世古一穂『コミュニティ・レストラン』(1)
世古一穂さんのコミュニティレストランの講演が、家の近くのYWCAであった。
その後、世古さんの『コミュニティ・レストラン』(日本評論社、2007)も読んだので、併せて紹介しよう。
コミュニティ・レストランとは
コミュニティ・レストラン、略してコミレスとは、「楽しく働き、おいしく食べる、くつろぎの場」である。
だが、それだけだったら、個人経営のレストランやカフェにも可能性はある。実際、かつては溜り場的な軽食が出る喫茶店がたくさんあった。
それらがダメだと言うわけではないだろうが、世古さんが商標登録してまで守ろうとしているのは、次の五つの機能と実践だ。
五つの機能
コミュニティ・レストランは次の五つの機能を包含していなければならない。どれに力点をおくかは様ざまだが、どれかを等閑視したものは世古さんはコミレスではないという。
1)人材養成機能
2)生活支援センター機能
3)自立生活支援機能
4)コミュニティ・センター機能
5)循環型まちづくり機能
コミレスの考え方
世古さんがコミレスに最初に取り組んだのは30年前。子育てのときに、安全安心なものを食べるにはどうしたら良いかを悩んだ。地に足がついた暮らしをし、地域で子どもを育てたいとも思った。そして、地域で女性の仕事場をつくろうと考えた。
そういうものがないのなら、自分たちでつくってしまえ、と私募債で300人から500万円を集めた。そうして始めたのがコミレス「でめてる」だという。
五つの機能、五つの実践と、言葉で言われるとイメージがわきにくいが、大きく分ければ、1)地域のなかで人と人が出会え、支え合える場をつくる、2)地域のなかで女性の就業の場をつくる、3)エコクッキングを実践する場をつくる、の三つにまとめられそうだ。
支え合うということ、自ら支えるということ
世古さんは、セルジュ・ラトゥーシュさんの「脱成長」という考え方を紹介し、9時から5時まで、オフィスにいてコンピュータと睨めっこをしているというのが、おかしいのではないか、と言われる。
今、求められているのは、いわば働き方、考え方を変えるということ。
たとえば精神障害者なら、週3日でもいいんじゃないか。障害者ばかりが集まると、それをお世話する人のペイだけで終わってしまう。手当をするという考え方に問題はないか。
自分たちが暮らしていけるのであれば、それで良いと考えるなら、週3日しか働かないと目くじらを立てることはない。
またアルツハイマーや精神障害者の人は、何も出来ない、出来ても半人前と思っているとしたら、それは違う。
野菜の切り方がとても上手な人もいる。自閉症の人は、同じものをたくさんつくるのが得意なことが多い。
一方、支え合う場をつくるということは、自分で食べていくだけの仕事を自らつくり出すということにも繋がっている。
大学も63歳で定年とか、私大は70歳定年とかで、しがみついている方も多いが、私(世古)はきっぱり止めた。ポストが増える成長時代ではないので、早く退職しないと次の世代のためのポストがあかない。さっさと退職して、地域のことをやるのも良いのではないか。
だいいち、文部省に自分の定年後のことを決められてたまるか、とのことだった。
なお、コミレスは誰もが気軽に立ち寄れる場を目ざすので空間的にもユニバーサルでなければならないし、社会的・経済的な配慮もいる。
また空間的なバリアフリーは大切だが、そのために整備に拘りすぎるのも考え物だ。車いすの人がきたら、よいしょっと上げることが気軽に出来る、心のバリアフリーが大切なのではないか。
なお、気軽にが常に普段着で、気兼ねなくとは限らない。
高齢者がちょっとお洒落をして来る場であっても良い。