疋田智『快適自転車ライフ』

 疋田智さんの『快適自転車ライフ』(岩波アクティブ文庫)を読んだ。
 初版は8年前の2002年。『自転車通勤で行こう』(1999年)から3年目に書かれた比較的古い本だ。


 内容は、まず「第1章 ママチャリに乗って冒険に出かけよう」で自転車が意外と遠くまで簡単にいける乗り物であることを紹介している。実際、首都圏なら隣の駅まで数キロしかないので、ママチャリでもすぐについてしまう。八王子から都心でも、数時間でついてしまう。
 まさにツーキニスト疋田さんの独壇場。自転車の魅力の世界に引き込まれていく。


 次に第2章では、自転車の種類やチャリンコの語源を紹介されている。
 3章では自転車通勤をはじめた訳から始まって、雨の日の快適?自転車運転術等を紹介。そして4章「自転車と街と未来と」では道路整備のあり方や、放置自転車問題、自転車にふさわしい街の規模など、まちづくり関係のさまざまな話題が語られている。


 「自転車レーンは必ず車道をつぶしてつくれ」など、自転車好きの人々には常識化していることも多いが、まだ実際には実現できていないことも多い。「自転車も使いましょう。だけどクルマの邪魔をしないでね」(p135)という社会の姿勢はいっこうに改まらない。


 また「街の美観のために自転車を撤去する、という考え方は、極端なことをいうと「人間がいると汚いから、街に入る人間の数を制限する」という考え方に似ている。そこに欠けているのは「誰のための街か」という視点だ」「思い出すのは、世界に冠たる放置自転車ゼロの街、ピョンヤンだ。あの街を美しいとおもえるかどうか」(p147)という指摘、たとえばボンには適切な駐輪と不適切な駐輪はあるが、放置自転車という言葉はないという指摘は、が痛い。


 確かに違法駐車はあっても、放置自動車という言葉はない。
 普段、何気なく使っている言葉だが、自転車は安物という見方が刷り込まれているのかもしれない。


 僕はヨーロッパではとか、アメリカではという感じに外国のことをありがたがる「ではの上(かみ)」は嫌いだが、ヨーロッパでは中高年男性が自転車に乗るのはむしろ自慢すべきことであり、環境に気を遣う知的階層のある種の自己満足、それ以上に「私はまだこれだけやれるぞ(体力があるぞ)」(p168)という意味だというのは羨ましいかぎりだ。
 日本の、特に団塊の世代ぐらいまでの高齢者は、自転車は苦役の乗り物であり、いつかはクラウン(それともベンツ)に乗ることが夢だった世代だから、自転車に乗ると自分は貧乏人だと公言している恥ずかしいことという感覚が残っているようだ。
 困ったものだが、いまさら変わらないのだろうか。


 さて、7月頃から何回か紹介した古倉宗治さんの『成功する自転車まちづくり』は、今、製版中。もうすぐ印刷だ。
 10月23日には京都でオプショナルツアー付きのセミナーもひらく。
 期待ください。


セミナー「成功する自転車まちづくり」
 古倉 宗治 氏、多賀 一雄 氏、矢野 晋哉 氏
http://www.gakugei-pub.jp/cho_eve/1010koku/index_z.htm


○インタビュー
 「『成功する自転車まちづくり』出版まぢか!



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