井田徹治『生物多様性とは何か』(3)

生物多様性保全エコツーリズム


 このような生物多様性の危機に対して、さまざまな取り組みがなされている。
 国家レベルで国益をかけた闘いが行われているのはCOP10でも垣間見えたところだ。


 一方では、地域から、地道に取り組まれている事例もある。
 この本でも多くの事例が紹介されているが、もっとも印象に残ったのは漁民がつくった海洋保護区の話だ。


 それはカリブ海にある、ジンベエザメの散乱海域にあるベリーズの話。
 地域の人々は長い間、木造の漁船で魚をとって暮らしていたが、アメリカのシーフード市場への輸出が認められるようになると、ロブスターやコンクカ貝をめがけて人びとが殺到した。隣国の船も現れるようになり、採れる量や質がどんどん落ちていった。


 漁師の家に生まれたバルバットさんは、「このままでは海も、そしてこの村もだめになる」という危機感を持ち、漁師仲間に呼びかけて「自然の友」という環境保護団体を設立し、行政や仲間の漁師を説得し海洋保護区をつくり、同時に観光ガイドやダイビングの指導者養成に力を入れたという。


 その結果、エコツーリズムが地域の主要産業になり、漁業で生きる人が少なくなったこともあり、漁船同士の激しい争いもなくなった。また自然の友が違反者を逮捕する権限も与えられ、監視を行っているおかげで、外国からの密漁も減った。


 だが、良いことずくめではない。観光産業の無秩序な拡大がサンゴ礁に悪影響を与えていると指摘されるようになっているそうだ。


 普通は政府がトップダウンで決める海洋保護区が地元の漁師からの発案で生まれたこと、そしてエコツアーによる産業おこしに成功したことなど、『宝探しから持続可能な地域づくりへ〜日本型エコツーリズとは』で主張しているエコツーリズムと地域づくりの合体の高齢なのだが、それでも生物多様性保全は一筋縄ではゆかないということのようだ。


続く


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井田徹治『生物多様性とは何か (岩波新書)


真板昭夫ほか『宝探しから持続可能な地域づくりへ―日本型エコツーリズムとはなにか