井田徹治『生物多様性とは何か』(4)

多様性とどうつき合うか

 最初に書いたように、人間による自然破壊から保護区を設けて生物多様性を守ろうというのには大賛成だ。『生物多様性とは何か』には、貨幣価値に換算してどうなるとか、保護区を設けたほうがかえって漁獲高が増えるとか、いろいろと書いてあるが、そんなことはたいした問題ではなくて、生物は大切だと僕は思う。



 しかし、人間にとって困った存在についてはどうだろうか。
 昔「ゴキブリたちの黄昏」という映画があった。人間に忌み嫌われながらも逞しく生きるゴキブリたちの姿を描いたアニメ&実写映画で、ゴキブリを追い回す烏丸せつ子をゴキブリの視点から描いていて、烏丸せつ子が鬼のように見えた。


 ゴキブリというともうひとつ、アマゾンかどこかのこぶし大の美しいゴキブリがいるそうだ。テレビに映し出されたそれは、あまりに美しく、録画して何度か見ていたら、嫁さんはとても嫌がっていた。


 ゴキブリはともかく、エイズをもたらしたのも、アフリカの奥地のチンパンジーだと聞く。
 未知の生物は人間に恵をもたらすかもしれないが、危険をもたらすかもしれない。


 人間社会の多様性は、稲葉佳子さんがオオクボについて語っているように、異文化、異民族でもルールを伝えれば結構分かってくれるという。軋轢を乗り越えてこそ、多文化の豊穣な世界があるというのだが、生物にルールを説いても始まらない。


 多様性という言葉に魅了されつつ、それはそんなに美しいばかりの話ではないのではないかとも思った。

(おわり)

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井田徹治『生物多様性とは何か (岩波新書)


小林薫渡辺えり子烏丸せつ子(出演)、 吉田博昭 (監督) 『ゴキブリたちの黄昏 [VHS]』(VHS)


稲葉佳子『オオクボ都市の力―多文化空間のダイナミズム