関満博『現場主義の知的生産法』(2)

『書籍』は社会へのラブレター

 もちろん、関さんの『現場主義の知的生産法』には、もっと納得しやすい話もいっぱい書いてある。
 特に、「地元に響かない「業績」などに目をうばわれず、地元を「愛し続ける」という態度を身につけることが求められていくのである。「現場」は刈り取るものではなく、共有し共に育っていくものなのである」(p33)という主張は、都市計画やまちづくりの学徒には是非、噛みしめて貰いたい。


 また文章よりも図形モデルがますます力を発揮するようになるだろうが、「複雑なものはダメであり、単純なもの、誰がみてもイメージを喚起できるものでなくてはならない」(p125)は、複雑で難解で酷いときには文字が小さすぎて読めない図を書いてしまう著者、そしてそのまま載せてしまう編集者には耳に痛い言葉だ。
 いくら正確でも、伝わらなければ意味がないのだ。


 関さんが最初に全精力を費やして書いた論文を指導教授のとこに持っていったところ、教授は焼き肉屋さんに連れて行ってくれたという。そして、論文をパラパラとめくり4〜5行を一番得意な外国語に訳してみて、と言われた。訳を手渡すと、じゃあ、この英語を日本語に訳してみて、と言われる。訳してみると文章は明らかに平明なものになっていたという。


 「肩に力が入りすぎてはいけない。『平明さ』が一番である。君のガールフレンドが読んでもわかるようなものでなくてはならない」。「ラブレターを書く時はどうだ。必死に『思い』を伝えようとするだろう。彼女の気持ちを引きつけるために、構成、表現に全力を尽であろう。論文もそのように書きなさい」と言われたそうだ(p158)。


 関さんは続けて、「『論文』や『書籍』は社会に対するラブレターであり、自分が伝えたいことを『思い』を込めて、一気に書き進めることが一番」「『思い』のない『論文』や『書籍』などやめた方がよい」と喝破されている。


 こうした「思い」から先日紹介した『『「農」と「食」のフロンティア〜中山間地域から元気を学ぶ』の原稿も出来てきたのだと思うと、大事にしなければと心底思う。

(おわり)

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関満博著『現場主義の知的生産法 (ちくま新書)』(2002、221ページ、735円、筑摩書房