大和田順子『アグリ・コミュニティビジネス〜農山村力×交流力でつむぐ幸せな社会』(1)

今、輝いている人々


 昨年末に出版した関満博さんの『「農」と「食」のフロンティア』は、中山間地の人々自身が産業化と自立で輝いていることに注目した本だが、こちらは中山間地にIターン、Uターンした人たちの輝きに注目した本だ。


 関さんがはじめて農産物加工所との出会いを感動的に語るように、大和田さんも農山村との出会いを感動的に語る。「それは驚きの連続だった。どこの農山村に行っても、都市にはない素晴らしい資源や魅力的な人々、地に足がついた仕事や暮らしがあった」。


 本書では、そうして出会った人々、その人々の事業を生き生きと紹介している。


 たとえばアミタ「森林ノ牧場 那須」では、森林酪農で育てられたジャージー牛の牛乳(500ミリリットル、500円)を核に、加工品や体験牧場を事業化している。


 また「アバンティ」はアメリカからオーガニックコットンを輸入し、糸から生地、商品まで一貫して製造、供給する事業を行っていたが、原綿や輸送費の上昇をきっかけに信州大学と協力して綿作りにチャレンジ。製品作りの原点が「農」であることを再確認しているという。


 また全村あげてのまちづくりで知られる智頭町には、博士課程で学び、林業に憧れて移住した西村さんが取り組む森林のなかでの育児「森のようちえん」や、現町長が40年も前に開いた山菜料理店「みたき園」、そして兵庫県から移住した澤田さんが元郵便局を改装した「カフェぽすと」がある。いずれも、それぞれのやり方で都会の人を魅了している。


 「キノコハウス」は都会から移住し農業をはじめた佐藤夫妻がはじめた事業だ。今は地元の人々と一緒になって「西会津発んめぇ〜宅配便」や「開墾&晩秋の山里・暮し体験ツアー」など次々と事業が立ち上がっている。佐藤昭子さんの口癖は「限界集落は?源快集落?。ここは源流地域。快さの源、楽しみが集まっているところです」だという。


 大企業社員から転進した浅見彰宏さんは喜多方で有機農業に取り組むとともに、水田への水路である本木・早稲谷堰の堰浚いに都会の仲間を引き込んでいる。江戸時代につくられた水路の堰浚いに二泊三日で参加すると、来た人はみな感動するという。


 そのほか、顧客満足(CS)のまえに、まず従業員満足(ES)を大切にして成功した「生活の木」、耕作放棄地の開墾や企業との協働で知られる「えがおつなげて」、有機農業の担い手を多数育て上げ霜里農場を率い、また村をあげての有機農業への転換を先導した小川町下里地区の金子美登さんも紹介されている。

 また、大崎市のふゆみずたんぼや鳴子の米プロジェクト、豊岡のコウノトリ米、石見銀山の群言堂、三つ星レストランの給仕長から有機農業事業者になった「ビオファームまつき」、都市近郊の耕作放棄地を菜園に再生しようというマイファームなど、元気な人たちがいっぱい紹介されている。


続く


○特報
 大和田さんのセミナーが京都と東京で開かれる。
京都セミナー塾(2.28)
ジュンク堂トークセッション(池袋)2011年3月03日(木)19:00〜


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・大和田順子『アグリ・コミュニティビジネス〜農山村力×交流力でつむぐ幸せな社会


・鳴子の米については『季刊まちづくり21』「地域探訪21:鳴子の米プロジェクト―宮城県大崎市……八甫谷邦明」参照


・群言堂については西村幸夫、埒正浩『証言・町並み保存』に松場登美さんの講演録を収録している。


・智頭町については『季刊まちづくり5』「地域探訪5:鳥取県智頭町の村づくり運動……八甫谷邦明」で紹介している。