大和田順子『アグリ・コミュニティビジネス〜農山村力×交流力でつむぐ幸せな社会』(2)

アグリ・コミュニティビジネスから学ぶ日本の未来

 この本から僕たちは何を学べば良いのだろうか。
 もちろん、触発され開墾に向かう人がいても良いし、農林業を継ごうと考えていただいても良い。著者はまずはそういう人たちに読んで欲しいと「はじめに」に書いている。
 僕自身はまずは自立と進取の精神を学び、元気を少し分けてもらえたように思う。きっとそういう読み方をしてくださる方も多いだろうと思う。


 では、「まちづくり」は本書から何を学べば良いのだろうか。


 一つには取り組みには時間がかかるということだ。
 金子美登さんが集落全体が有機農業になることを夢見たのは1971年のこと。以来、40年にわたってビジョンを語り続け、ついに39年目にして集落で米を販売している農家がすべて有機農業になったという。


 豊岡のコウノトリが死滅したのもちょうど1971年。以後、ソ連からもらい受けたコウノトリの人工繁殖に取り組み、ようやく野生復帰に踏み切ったのが2005年、自然繁殖が確認されたのは2007年だ。


 本書には最近始められた事業も多く載っているが、村や町全体を変えていくのは、やはり時間がかかるだろう。一度、壊れてしまった自然や地域は短時間では再生しない。まちづくりは時間がかかり過ぎとよく言われるが、僕は胸をはって「当然だ!」と言って良いと思う。


 二つには様々な人との連携の必要性だ。

 ゆふみずたんぼも、コウノトリの野生復帰も、旗振り役は行政だが、農家の人やJAはもちろん、NPOや大学が協力している。そして農政や自然保護はもちろん、観光や産業・商業振興など行政の仕切りをこえて連携しないと、効果が極限されてしまう。


 えがおつなげては企業と、アバンティは大学と協働しているし、群言堂は町並み保存の中核として地域に根を張っているし、多くの専門家がファンとして付いている。


 三つには、公共のお金の使い方だ。
 松原隆一郎さんの『日本経済論〜「国際競争力」という幻想』について、いま必要なのは景気浮揚のみを目的としたコンクリートへの投資でも、子ども手当のような直接給付でもなく、人と人の結びつきの再生に役立つ公共投資だとの議論をされている。


 言うことはわかるけれど、じゃあ、いったいどんな公共投資なんだ!?ということだが、本書の事例のいくつかは、その参考になると思う。


 大和田さんもアグリ・コミュニティビジネス起業のポイントの一つに、「小さく手堅く実績を積む」をあげ、自治体や財団の数十万程度の助成金から、各省庁の補助事業の助成金で実績を積み、数百万単位の事業を行えるように実力を付けてゆくことを勧めている。


 もちろん、補助金を使うための事業であっては困るが、事業の立ち上げには公的な支援が役立つことも多い。事業仕分けでなくなってしまった地域の元気再生事業など、果たして本当にムダ金だったのか、その効果を検証してみる必要があると思う。


続く


○特報
 大和田さんのセミナーが京都と東京で開かれる。
京都セミナー塾(2.28)
ジュンク堂トークセッション(池袋)2011年3月03日(木)19:00〜


○アマゾンリンク

・大和田順子『アグリ・コミュニティビジネス〜農山村力×交流力でつむぐ幸せな社会


松原隆一郎日本経済論―「国際競争力」という幻想 (NHK出版新書 340)