ロハスって何? ロハス発祥の地、ボルダーから

ロハスってなんだ


 大和田順子さんといえば、ロハスの紹介者として名高い。現在もロハス・ビジネス・アライアンスの共同代表でもある。


 僕はロハスをちゃんと勉強したことはなかったし、マスコミ報道から受ける印象は良くなかった。
 だから、アグリ・コミュニティビジネスに深化していると知って、驚いたというのが正直なところだ。


 この点を大和田さんにお聞きすると、

 「ロハス発祥の地のボールダーのまちづくりやライフスタイルを日本にあてはめて考えた時、特に有機農業をベースにしたモノを暮らしに取り入れる、そして有機農業をベースにしたコミュニティ(ローカル)ビジネスや、地域づくりに自ら参画するという視点が重要だと考えたわけです。


 また、ロハスを提唱した人達にインタビューしたときに「なぜ有機農業がキーになるのか」たずねてみましたが、それは作る人(農家)の健康に良く、食べる人の健康に良く、地域の有機農家の農産物を食べることにより地域経済が活性化し、また、遠くから運ばないし、化学肥料や農薬を使わないから環境負荷が低い、という答えでした」とのこと。


 大和田さんのなかでロハス思想が日本の土壌に根付き深化したというわけだ。


 ちなみにロハスの発祥の地、アメリカ・コロラド州ボルダーは、まちづくり(都市計画)でも有名な街だ。百年前にさかのぼるグリーンベルトをはじめ、成長管理政策や自動車を排除した中心市街地、そして郊外大規模店舗への厳しい姿勢で知られている。


 残念なことに、ロハスを喧伝したマスコミは、そのようなことは伝えてくれない。


 幸い、服部圭郎さんの『衰退を克服した アメリカ中小都市のまちづくり』に詳しいので紹介しよう。

ボルダーのまちづくり

広大なグリーンベルトと成長管理


 ボルダーはコロラド州にある人口9万人程度の街だ。
 コロラド大学をはじめ四つのキャンパスがあり、所得水準は全米平均の36%も高く、学歴も高く、白人が多い。
 ヨーロッパ系の人が住むようになったのは1858年で、当時は鉱山産業が中心で、もとは緑がほとんどない土地だったという。
 だが、100年ほど前、山の麓から草原にかけて大規模な遊園地をつくろうという動きに対して市民が立ち上がり、ロー・オルムスデッド・ジュニアを招き計画を中心追い込むと同時に、グリーンベルトを設定した。それが現在の緑豊かな環境につながっている。


 さらに1959年には山にホテルと郊外住宅地をつくろうという動きが市議会を巻き込んで進めめられたが、市民が立ち上がり、ある標高以上の土地への上水道の供給を禁止するように市の憲章を書き換えてしまう。これによって住民投票にかけない限り、山の開発はできなくなった。
 また消費税を値上げして、市外の保全のためにオープンスペースを購入したりもしている。


 また1976年には成長管理の条例を制定し、住宅や業務地の年間増加面積の上限を設けるなど、厳しいコントロールを引いた。さらに、コロラド大学の学生の発案がきっかけで、15メートルを上限とする高さ規制が憲章に付け加えられている。


 また山中にあるホテルへのアクセス道路は舗装されていない。これも市民が反対したからだ。150年前の雰囲気を保ったホテルに行くのに舗装された道はそぐわない。興ざめだという理屈が通るのだから凄い。


 現在、市の包括的計画図(マスタープラン)では、中心部を広大な田園保全地区と自然保全地区が取り囲んでいる。今、日本で注目されているコンパクトシティが、まさに実践されている。

自動車を排除した中心市街地

 ボルダーの中心市街地パール・ストリートは、1977年以来、4ブロックにわたって車を排除した歩行者専用モールとなっている。これはアメリカではかなり早い時期の専用モールで、しかも数少ない成功例だと服部さんは書いている。


 そこにはもちろん優れた都市デザインと、市やBID等の民間組織による丹念な管理があるのだが、それ以上に大規模商業施設ではなく、地元商店を大切にしようという市民意識があることが大きいようだ。


 アメリカでは消費税が自治体の財源であり、日本以上に大型店への期待、隣町に大型店が進出し消費が奪われることへの恐怖が大きい。だからボルダー市でも大型店誘致をするかどうか検討されたという。だが、地元商店への悪影響や市のアイデンティティ喪失を懸念する市民意識が強く、積極的な誘致は行わないことになったという。


 また、地元商店街も、サービスでは負けない、迎え撃つと意気盛んで、地元経営のボルダー・ブックスという本屋の包み紙には「独立した心のための独立した本屋」と書かれているそうだ。


 スターバックスのように日本では歓迎されるチェーン店も、ここではチェーン店であるが故に否定される。ローカル経済が活力を持っていることが、コミュニティの活力の源泉であることを市民が理解していると服部さんは書いているが、本当だろうか。別の本で、ヨーロッパのある街では、高くても地元の商店で地元の産物を買うと市民が答えていると書いてあった。それが自分たちの地域を守ることだからだという。
 こういう心こそ、ロハスの真髄であって欲しい。

自動車からの脱却

 ボルダーはまた、自動車分担率を下げることにも熱心だ。特に運転手一人しか乗らない車は冷遇されている。バスは補助金で、実質無料で乗れるエコパスが配られているし、自転車レーンも147キロが計画され、その五分の一は完成している。


 また住宅地においては速度を30キロに制限したスロー・ゾーンが設けられ、違反すると通常の2倍の罰金を払わなければならない。そのほかスピード・ハンプやランドアバウトというロータリーも設けられている。


 ただし、そこまでやっても自動車依存率は60%を超え、公共交通機関は5%に満たない。東京や京都に比べると、たいした数字ではないが、日本も地方都市ではもっと高い数値になっていることを考えると、それなりの成果が上がっているというべきだろう。

ロハスとまちづくり

 果たしてロハスがボルダーの生活とどれだけ関係があるのか、僕は知らないが、サステイナブルを言うなら、野放図な郊外開発や大型店進出に、立ち向かうライフスタイルも学ぶべきではないか。


 商標権をめぐるソトコトの強引な商法では、ロハスが単なるマーケティングの手段になっているという感じだったが、大和田さんが共同代表を務めるLOHASBusiness Allianceは、ロハスを提唱したボールダーの人達の原点に則り、「LOHASコンシューマーは、単に環境に配慮するだけでなく、家族や地球の健康、さらには社会の将来にまで関心を持っている人々で、社会正義、自然資源の保全自己啓発(personal development)など、身体・マインド・精神・地球のウエルネスに関心を持つ」(LOHAS Business Alliance HPより)と主張している。

 今回の本に郊外開発といった話題が直接書かれているわけではないが、都市計画や土地利用から考えてきた僕たちと、大和田さんには、違った出発点から同じ頂上を目指しているように感じるのだが、どうだろうか。

(おわり)


○アマゾンリンク


・大和田順子『アグリ・コミュニティビジネス〜農山村力×交流力でつむぐ幸せな社会


・服部圭郎『衰退を克服したアメリカ中小都市のまちづくり