本の紹介

林直樹、齋藤晋編著『撤退の農村計画』(2)

撤退の農村計画 集落に撤退の検討を薦める、この言いにくい問題に正面から立ち向かったのが林直樹さんほかによる『撤退の農村計画』だ。 もちろん一つでも集落の消滅を減らすように努力することに反対する本ではない。 だが人口減少と高齢化という圧倒的な現…

林直樹、齋藤晋編著『撤退の農村計画』(1)

国土交通省と総務省の2007年の調査によれば、10年以内に消滅の可能性がある集落は全国で423、「いずれ消滅」を含めると2643にのぼるという(林直樹、齋藤晋編著『撤退の農村計画』、p11)。 国土交通省の調査では過疎地の集落は6万ちょっとなので、わずか4…

宇沢弘文『「成田」とは何か』(2)

住民が大切にしたもの 第一回公開シンポジウムでの石毛博道さんの意見発表は心を打つ。 「つねに指摘してきたように、運輸省と関係住民、関係市町村の公開討論の場は、空港位置決定のときに、当然、開かれるべきであったからです」。 「もし1966年にこのよう…

宇沢弘文『「成田」とは何か』(1)

宇沢弘文さんと成田闘争 宇沢弘文さんと言えば、近代経済学の泰斗であると同時に、『自動車の社会的費用』(岩波新書、1974年)で「外部不経済」という考え方を広く世に知らしめた人である。 都市計画学会の50周年記念大会が早稲田で開かれたとき、記念講演に…

藤井聡『正々堂々と「公共事業の雇用創出効果」を論ぜよ』(2)

失われた夢 どうして大衆は道路をはじめとした公共事業に不信感を持つようになったのだろうか。 政治との癒着、談合、環境破壊などなど枚挙に暇がないが、藤井さんも指摘されているように、バブル時代に、アメリカの要請に応えてやたらと公共事業を膨張させ…

藤井聡『正々堂々と「公共事業の雇用創出効果」を論ぜよ』(1)

コンパクトシティ 著者の藤井聡さんは現在、京都大学工学部で土木計画、とくに交通計画を教えておられる。 交通図書賞を受賞された『モビリティ・マネジメント入門』は東京工業大学におられた頃に、僕が担当して書いて頂いた本だ。 そのとき、最初にいただい…

好井裕明『「あたりまえ」を疑う社会学』(2)

今日はいよいよ、「あたりまえ」を疑うの真骨頂、普通であることとは何かについての議論だ。 語り出す 大阪の同和地区の識字学校の方々の文集に、好井さんは「一つ一つが、書かれた人の生活に根ざし、生きてきた力が感じられる」という。文字を書くという力…

好井裕明『「あたりまえ」を疑う社会学』(1)

連れ合いが買ってきた好井裕明さんの『「あたりまえ」を疑う社会学』を読んだ。 出だしのとっつきやすさと、大衆演劇の世界に入り込んでしまった鵜飼正樹さんの話に引かれたようだが、数十ページも読まないうちに放り出してある。 光文社新書なので軽いのか…

斎藤純『ペダリスト宣言!』

ペダリストとは斎藤さんの造語だ。サイクリストがサイクリングと一対で、レジャーとしての自転車愛好家を意味するのに対して、日常的な場面での愛好も含めた言葉だという。 またチャリダーという言葉もあるが、自転車を盗んでオートバイの集会に駆けつけるこ…

久繁哲之介『地域再生の罠』に反論する(4)街なかの農産物加工品直売所

2つの提案について そのほかにも、いろいろ問題点の多い本だが、文句をいうことはこのぐらいにして、久繁さんの提案を前向きに考えてみよう。 一つは、農産物「加工品」直売所を「憩いの場」にするというもの。 二つ目は、町なかの空き地、空き施設をつかっ…

久繁哲之介『地域再生の罠』に反論する(3)富山市のコンパクトシティ政策は失敗か

富山市も繁華街は著しく衰退 久繁さんによると 富山市は前例依存体質で、中心市街地活性化基本計画やコンパクトシティにいち早く飛びついたが(p154)、繁華街は著しく衰退しており、駅前も単純ににぎわいがあるとは言い難い。繁華街には廃墟ビル、空き地、…

久繁哲之介『地域再生の罠』に反論する(2)ぱてぃお大門は失敗か

ぱてぃお大門に閑古鳥? 最初に叩かれている宇都宮。次が松江の天神商店街。幸か不幸か、僕の本で紹介したした記憶はない。福島、岐阜も記憶にないが、長野と富山は、何度か紹介した。 まず、ぱてぃお大門。 09年2月12日の12時から30分間、ぱてぉい大門を訪…

久繁哲之介『地域再生の罠』に反論する(1)土建工学者って誰?

ツイッターでyami_kenさんに薦められて『地域再生の罠』を読んだ。 主張には共感できるところもある本なのだが、まず敵をつくって一方的に叩くという姿勢には辟易する。 その敵だが嘘っぱちの成功事例を喧伝し、無意味な箱物を乱造する土建工学者である。 こ…

海津ゆりえ『日本エコツアーガイドブック』〜その2〜

京都サイクリングツアー・プロジェクト 本書ではエコツーリズムを作り上げてきた人々が実に魅力的に描かれている。 西表や小笠原、知床、裏磐梯など、いかにも自然、いかにもエコツアーという感じのフィールドが多い中で、異色をはなっている自転車による京…

海津ゆりえ『日本エコツアーガイドブック』〜その1から

エコツーリズムとは 本書は「ガイドブック」となっているが、実際はエコツーリズムに果敢に取り組んできた人々の活動、考え方を紹介しながら、エコツーリズムの真髄を紹介する本だ。 エコツーリズムとは何か? 海津さんは「はじめに」で「地域の宝を守りなが…

「新しい中世」の始まりと日本

近代の終焉 蓑原さんの薦めで大窪一志『「新しい中世」の始まりと日本』を読んだ。 難しい本だった。 グローバリズムは実質賃金を抑制する利潤革命のために、資本と労働の市場統合を推進し、国民国家を解体する「資本の反革命」だと言う(p80)。 だからグロ…

ジャック・アタリ『21世紀の歴史』

「超帝国」「超紛争」 アタリはこの本で、世界を飲み込もうとしている市場民主主義は、国家の弱体化させ、「超帝国」、その裏返しとしての「超紛争」を招くという。その破滅的事態から脱出するすべが「超民主主義」であると説く。 アタリは市場は民主主義と…

藻谷浩介『デフレの正体〜経済は「人口の波」で動く』

生産人口の減少が経済の縮小の原因 藻谷さんから送ってもらった『デフレの正体』を読んだ。 藻谷さんの主張は単純、明快だ。 生産と消費を担う15歳から65歳までの人口が1990年代半ばを境に減少に転じた。その人口減少に並行して就業人口が減少し、総所得が減…

『「分かち合い」の経済学』

この本は神野さんの渾身の祈りだ。 全編に共感できる言葉が溢れている。 しかし最後は「予言の自己成就」の教えで終わる。「信じるものは救われる」、いや、信じるしかないということだろうか。 新自由主義に毒されてしまった僕は、悲しいことに簡単には信じ…

『ウーマン・エコノミー 〜世界の消費は女性を支配する』

宗田好史さんに薦められて『ウーマン・エコノミー 〜世界の消費は女性を支配する』を読んだ。というか途中までは読んだ。辛くなって、あとは読み飛ばした。 世界の消費の64%は女性が支配しており、消費額は現在の2000兆円から数年後には2800挑円に拡大す…

『「場所」と「場」のまちづくりを歩く』その3

再開発、区画整理の終焉と新しい道 最初に紹介したように岩見さんは再開発、区画整理への反対運動の先頭にたってきた。批判のポイントは、これら事業では土地が資産価値としてしか評価されないという点にある。 土地が減らされ、位置が変えられても、利便性…

『「場所」と「場」のまちづくりを歩く』その2

コインストリートは、まちづくりではなくなった? 『「場所」と「場」のまちづくりを歩く』を引き続き紹介しよう。 サッチャー肝いりのドックランズや公営住宅の払い下げ、鉄道の民営化などがが批判的に紹介されているのはもちろん、コインストリートについ…

『「場所」と「場」のまちづくりを歩く』その1

独裁者が好きなイギリスの市民 『「場所」と「場」のまちづくりを歩く』は2004年に麗澤大学出版会から出た本。 著者は岩見良太郎さん。当時は埼玉大学経済学部の教授とある。 区画整理や再開発の反対闘争の先頭に立ってこられた人のようだが、面識はない。 …

人数に拘るビジットジャパン

観光後進国ニッポンは海外に学べ! 鈴木勝さんの『観光後進国ニッポンは海外に学べ!』を読んだ。 面白かったのは「カニかに激安ツアー」をもっと外国人旅行者に紹介してはどうかという話。確かに、カニをたらふく食べて旅費込み1万円以下は安い。こういう…

『世界遺産の真実』

宗田好史さんに薦められて佐滝剛弘さんの『「世界遺産」の真実』を読んだ。 イコモスなどに関わっておられる宗田さんが「良く取材している」と誉めるだけあって、しっかりした内容だ。特に94年のグローバルストラテジー(産業遺産、20世紀の建造物、文化的景…

ジャック・アタリ『金融危機後の世界』

先日紹介した高城剛さんの『オーガニック革命』でも引用されていて、世界金融危機を予見した本として話題になった『21世紀の歴史』を書いたアタリが金融危機後に書いた本だ。 アメリカは世界中からお金を集め、なんと世界のGDPを上回る54兆ドルの負債を…

『奇跡のプレイボール』

『体験交流型ツーリズムの手法』の著者、大社充さんからもらっていた『奇跡のプレイボール』を読んだ。 物語は大社さんがニューヨークに住む友達・石田さんから三十数年ぶりに手紙を受け取るところから始まる。取材でであったアメリカのスーパーシニア野球の…

『小布施 まちづくりの奇跡』

今日は葵祭だった。急ぎの用で河原町を渡ろうとしたのだが、行列にぶつかってしまった。 カメラも携帯も忘れたし、狭い歩道の人波に巻き込まれ人しか見えなかった。せっかくの雅を写真で紹介できないのは残念。 ところで川向正人さんの『小布施 まちづくりの…

『オーガニック革命』

ハイパーノマドとは 高城剛さんの『オーガニック革命』を読んだ。一言で言えば、複雑な気分。 高城さんは、今までのグローバリゼーションはリーマンショックで崩壊し、これからはハイパーノマドの時代、真のグローバリゼーションの時代が来るという。 2章で…

『映画館のつくり方』

小泉秀樹さんからコミュニティシネマの相談を受けて、『映画館(ミニシアター)のつくり方』を読んだ。 ミニシアターというのは、50〜100座席ぐらいの規模で、東宝や松竹などの系列に属さず、単館(独立)系の映画を上映するところ。昔は2本立で2週間同じ…