ジャック・アタリ『金融危機後の世界』


 先日紹介した高城剛さんの『オーガニック革命』でも引用されていて、世界金融危機を予見した本として話題になった『21世紀の歴史』を書いたアタリが金融危機後に書いた本だ。


 アメリカは世界中からお金を集め、なんと世界のGDPを上回る54兆ドルの負債を抱えるまで消費に励んできた。そのうえ、アメリカの金融機関はその債権を複雑怪奇な形で売りまくり儲けていた。
 問題のサブ・プライムローンとは、十分な収入がない人が、借金で家を買って、借金の利払いが大きくなる数年後に、頃合いよく値上がった家を売却し、借金を返す。そして次の借金をして家を買い、また数年後に値上がったところで売却して借金を返すという仕組みだと聞く。


 そうして積み上がった借金が54兆ドル! これはもう戦争かハイパーインフレしか解決策がないそうだ。しかもインフレは借金をチャラにしたい人びと、金融機関、保険会社、政府はもちろん、政府の借金を押しつけられそうな若者の利益になるように見えるので、民主的に支持される可能性が高いという。しかしハイパーインフレは社会そのものを破壊する。勝者は誰もいないともアタリは言う。
 唯一の解決策は早期のインフレ促進策と5%になった時点での即座の抑制策。あと10年ほどで年金暮らしに入る僕にとっては、タダでさえ少ない年金が実質4割減になるというのだから、暮らしが立ちゆかなくなる。それでもハイパーインフレや戦争よりはましと思えということだ。


 それに、日本のように国債の借り換えが必要な国は、5%でも国ごと吹っ飛ぶかもしれない。比較的健全な財政の国や、アメリカのようにドルを刷っていれば良い国とはやっぱり違う。


 それはともかく、金融資本主義への根本的処方箋は、グローバル市場に対応し金融市場をグローバルな法規制の下に置くことだという。すなわち「できうるかぎり民主的な統治制度を地球規模で構築することである」。そして浮かれた銀行家の仕事を、生真面目で退屈なものに閉じこめ、関係者が要求する利益を実体経済の収益性レベルにまで制限すること。


 これは、とても出来そうな気がしない。世界を牛耳る米英は金融帝国なのだから、自身の骨を切るだろうか。アタリも悲惨な戦争を経なければ無理かもしれないと言う。お先真っ暗だ。


 それはそうと「今回の危機は、若年層の相対的な減少と所得の偏りによる危機である」としていることは興味深い。
 日本だけではなく、世界もまた、右肩上がりの成長モデルが通用しなくなりつつあるということか。無茶な借金さえなければ、あくせくするのをやめる良い機会なのだが・・・。


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