藻谷浩介『デフレの正体〜経済は「人口の波」で動く』

生産人口の減少が経済の縮小の原因

 藻谷さんから送ってもらった『デフレの正体』を読んだ。
 藻谷さんの主張は単純、明快だ。


 生産と消費を担う15歳から65歳までの人口が1990年代半ばを境に減少に転じた。その人口減少に並行して就業人口が減少し、総所得が減少した。だから物が売れないのだという。なのに企業は、コストを削り、店舗を増やし、安売り競争に走った。そのしわ寄せで人々の懐は寂しくなり、ますます売れなくなった。
 こんな状況だから2000年代前半の輸出企業中心の好景気は国内投資につながらず、株価の上昇や配当は、おもに高齢者のお金持ちに落ち、そこに止まって消費に回らなかった。

では、どうすべきか

 むしろ、この間にすべきだったのは、人件費を維持しつつ、あるいは上昇させながら、それでも売れる商品をつくることだった。それこそが一企業にとっても、国全体にとっても望ましい生産性の向上だ。

 だから、今度こそ企業が頑張ってとりわけ消費性向が高い若者、子育て世代の雇用を確保し、まともな給料を払うことが再生への道となる。


 たとえば団塊の世代の退職で浮く人件費を若者に回す。あるいは高齢者に喜んでお金を使ってもらえる商品を開発し、稼いだお金を若者に回す。さらには生前贈与を優遇する。
 そして、就業人口の減少を逆転するために女性の社会進出を促す。仮に生産年齢人口の専業主婦1200万人のうちの4割が就業したら、団塊の世代の退職は補え、所得も維持できるという。そして女性経営者が増えれば、消費をリードする女性が欲しい物がもっと生まれてくる。


 また、外国人観光客や短期滞在者の消費を増やすことも、効果が大きい。というか、政府ができる景気対策としては格段に効果的だと言う。日本の観光産業の生産性は低いと言われるが、これは人件費が大きいと言うことでもある。だから観光の波及効果はむしろ他産業よりも大きい。この人件費を減らすのではなく、それに見合うサービスを提供し、評価されることが大事だということだろう。

人を大切にできるかが鍵

 確かに女性の就業率があがれば経済は活気づくだろう。
 6月8日に紹介した『ウーマン・エコノミー 〜世界の消費は女性を支配する』にも書かれているように、消費をリードしているのは女性なのだから、彼女らが気兼ねなく使えるお金を手にすれば、消費も上向くに違いない。


 しかし、そのためには、昨日紹介した『「分かち合い」の経済学』神野直彦さんが指摘しているように、同一労働同一賃金が絶対に必要だ。そしてなにより、パートであれ正社員であれ、働くことに誇りを持てること、特に見下されないことが大切だと思う。


 ところが、藻谷さんが指摘しているように、日本の企業がやってきたのは女性や若者など、新規の就業希望者を、雇用の自由化の対象として狙い撃ちにすることだった。
 経営者はもちろん、中高年の高給取りの既得権は大切にし、しわ寄せをみんな新参者に押しつける。
 女性は「条件に合う仕事があれば、働いても良い」と言っているらしいが、それには尊厳のある扱いも当然にも含まれるだろう。それが出来るだろうか。


 藻谷さんは、強制ではなく、進んだ意識をもった企業の自主努力や、政府等による勧奨によるのが良いという。その証左に、日本企業の環境配慮を挙げておられる。しかし環境、環境とうるさいほどに言われるようになっても、CO2の排出量は減らない。ドラスティックに減らすには環境税をかけるのが一番効くのではないか。同様に、企業や経営者の意識を変えるには、外圧も必要なのではないか。

都市計画、景観まちづくりの役割

 藻谷さんは、これからの日本はアジアの消費者の憧れであるべきだという。イタリアやフランスが日本にとってそうであるように、人手がかかる手づくりの個性的な品物を、文化的な幻想を振りまきながら、勃興著しいアジアの人びとに買ってもらう。


 そのためにはパリの街なみよりも資産価値が高い中低層の街なみを東京や大阪に作れるかが勝負だという。その通りであれば、僕たちが取り組んでいる「都市計画」「まちづくり」も捨てたものではない。そういえば、アタリも『21世紀の歴史』で超民主主義において都市計画は主要な科学的学問となり、都市内部の地区は自主管理をめざすと書いていた。
 そこに上品な投資を呼び込もうというわけだ。


 ここでもまた、人手を減らす生産性、いかに安く超高層ビルを造るかではなく、手間暇をかけて価値を守り、作り出すことが求められている。

次作は絶対に僕の手で

 ところで、この新書、夜討ち朝駆けで執筆に踏み切らせ、講演会に足を運び、講演録を起こして修正するなど、出版側の熱意と誠意で出版にこぎ着けられたという。そこまでするとは、頭が下がる。


 藻谷さんは今後、中心市街地活性化や観光振興、企業経営など各論についての著述にも取り組まれるそうだ。
 実は昔、中心市街地活性化をテーマに執筆をお願いし、そこそこ良いところまで出来ていたのに、なぜか仕上がらなかったことがある。
 今度こそは、出したい。


○執筆中の藻谷さんへメッセージを!
 ベストセラー『デフレの正体』(角川oneテーマ21)の著者であり、平成合併前の3200市町村の99%を訪れ、地方の実状を肌で知っている藻谷氏を2010年10月26日にお招きし、中心市街地衰退の真の原因は何か、衰退してしまった街、いまも頑張っている街の違いは何か、デフレ時代だからこそできる活性化の原因療法とは何か、そしてその担い手は誰かについて論じていただきました。
 現在、このまとめを校正頂いています。
 校正中の藻谷さんへの激励のメッセージは下記から。


 「丸一日・中心市街地活性化塾・藻谷さんにメッセージを!



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藻谷浩介 『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21 C 188)