『生活支援の地域公共交通』

分野を広くきっちりと押さえた本

 この本は首都大学東京都市システム科学専攻が企画した都大学叢書の3冊目。約1年前の2009年4月の発行だ。
 書いているのは当時同専攻にいた秋山哲男さんと、その門下の吉田樹、猪井博登、竹内龍介さんの四人。
 最初は原稿の体をなしそうになくてハラハラしたが、何回も会合を重ねられ、だんだんとまとまったものになっていった。本になった時点では、この分野を広くきっちりと押さえた本になったと思う。

ニーズに合った計画を

 よく知られているように地域公共交通は大変に苦しい。地方のバスや鉄道がどんどん消えていっている。
 大きな原因は自動車の普及と人口減少。
 誰もが自動車に乗れるなら、それでも良いのだが、子どもや、お年寄りには運転できない人も多い。現に、自分で自動車を運転できなくなると外出を控えがちになってしまうという。


 だから、なんとか通院、通学、そして買い物が出来るように、公共交通を支えなければならないのだが、かといって空の大型バスを走らせるわけにもいかない。
 では、どうするか。


 本書では地域の必要性をよく見極め、コミュニティバス、STサービス、そしてデマンド型交通のどれが地域によくあっているかを考えることが大切だと言っている。
 そして運行形態や運賃などもニーズに合わせて十分に検討することが大切だ。

境界を越える

 また、赤字が出るのは仕方がないとしても、さらに工夫する余地がないか。たとえば複数の輸送事業を1人の職員が兼務したり、スクールバスとコミュニティバスを統合するといった工夫がなされている例もあるという。


 大江正章さんが紹介していたが、島根県中山間地域研究センターでは結節機能を小学校区程度の生活圏に創ることを提案し、それを郷と名づけ、公共交通については「人も物も郵便も同時に運ぶバスを運行する」ことを提案しているという。(大江正章「限界集落の挑戦」『世界』2008.8)。


『成功するコミュニティバス

 この本は生活支援の公共交通のうち、コミュニティバスに絞って取り上げ、具体の計画・運営ノウハウを書いているので、同様に参考になると思う。




○「生活支援の地域公共交通」関連講演会
2010年6月22日/大阪
http://www.gakugei-pub.jp/kanren/ibento/20100622kotsu.pdf

○アマゾンリンク
・秋山 哲男、吉田樹編著、猪井博登、竹内龍介著『生活支援の地域公共交通 (都市科学叢書 3)

・松本幸正、中部地域公共交通研究会編著『成功するコミュニティバス