海津ゆりえ『日本エコツアーガイドブック』〜その1から

エコツーリズムとは

 本書は「ガイドブック」となっているが、実際はエコツーリズムに果敢に取り組んできた人々の活動、考え方を紹介しながら、エコツーリズムの真髄を紹介する本だ。


 エコツーリズムとは何か? 海津さんは「はじめに」で「地域の宝を守りながら伝える活動を行い、その継承と保全を図る運動である」としている。
 そこに掲載された図では「資源の保全」があり、「資源を生かした観光」があり、それが「地域振興」につながり、ひいては「資源の保全」を深化させる。そのサイクルの中心にエコツーリズムが描かれている。


 エコツーリズムは欧米で生まれた考え方なのだが、日本ではやや特殊な発展を遂げ「日本型」と呼べるスタイルを獲得したと言う。なぜなら、原生的な自然を想定している欧米に対し、「国立公園にも人が住み、人がつくってきた自然と、その自然に関わる知恵に溢れているのが日本である。誇りをもって地域の宝を守り伝える語り部がいれば、そこはエコツアーサイトになりうる」からだ。


 この点を西表でエコツーリズムを作り上げてきた石垣金星さんは「自分たちで自分たちの地域をつくっていく運動が、たまたまエコツーリズムと呼ばれただけでしょう。エコツーリズムは地域の自然と、その自然から生まれた文化をつくりあげていく、いわば文化運動なんですよ。その文化は自然を活用し、工芸や芸能であったりするけれど、それを自慢する行動を総称してエコツーリズムというんです」と本書のなかで語っている。


 この話を読んでいて文化的景観の議論を思い出した。
 もともと世界遺産には文化遺産と自然遺産しかなかった。単純にいえば文化遺産とは人間の営為の結果であり、自然遺産は自然そのものだ。ちなみに複合遺産は、単に文化遺産と自然遺産の価値を両方備えている遺産であって、自然×文化ではない。
 1992年、そこに「自然と人間の共同作品」を表す「文化的景観」が登録基準の一つとして加わった。有名なのはフィリピンの棚田、日本では白川郷石見銀山だ。


 ちょうど日本で日本型エコツーリズムへの模索が始まったころ、世界で「人間と自然の相互作用」の価値が認められたのは興味深い。


 だから「日本型エコツーリズム」は「日本型」ではあっても、日本特殊ではない。
 「宝探し」を「産業興し」に繋げていくエコツーリズムの考え方には普遍性があるし、それは観光という枠をも超えている。むしろ大事なのは「産業興し」「地域振興」を、「資源の保全」に繋げ、先ほどのサイクルを回し続けるかどうかだろう。

宝探しからの地域づくり

 二戸などいくつかのフィールドは5月13日に紹介した真板さんと海津さんが一緒に取り組んでいる。2人はエコツーリズム協会の仲間でもある。だから、考え方に共通するところも多い。
 真板さんの本は現在、初校作成中だ。
 いくつかのフィールドは重なるが、海津さんのこの本はキーパーソンに焦点を当てているのに対し、真板さんの本は全体的に、また仕組みも含めて紹介している。
 とくに宝探しを地域づくりにまで発展させるにはどうすれば良いか、手順をおって解説している。また「ガラパゴス」や「ボスニア・ヘルッエゴビナ」での日本型エコツーリズムの試みも載っているので、期待して欲しい。

続く


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