大西隆編著『広域計画と地域の持続可能性』〜その1〜

「東大まちづくり大学院シリーズ」が出来たわけ


 東大まちづくり大学院は2007年にはじまった社会人向けの教育コースだ。シラバスや教授陣、公開講座や連続シンポジウムの質はさすがで、いずれそれらの成果を出版して頂けないかと、コース長の大西隆さんにだいぶ前からお願いしていた。
 すぐには実現できなかったが、幸い大学院側の意向とも合い、今年の1月には『低炭素都市〜これからのまちづくり〜』、3月には『広域計画と地域の持続可能性』を出版することが出来た。いずれも、この出版不況期、崖っぷちの状況のなかでは健闘してくれている。
 続いて、『まちづくりの制度と戦略』『都市のマネジメント』を出版する予定で、今、前者の原稿集めが大詰めだ。

『広域計画と地域の持続可能性』

 まず、8月末に京都でセミナーの開催が決まっているシリーズ2作目から紹介しよう。
 題名通り広域計画の本だが、広域計画といえば、全総を思い出す。これは五全総で役割をおえ、2008年に国土形成計画に切り替わった。耳かじりの印象では、もう全国をどう開発していくなんてことを計画する時代は終わったと思っていた。
 実際、開発をリードするような政府計画への依存度が低下してきたことは本書の前提だと書かれている。しかし、だから広域計画は不要なのか。それとも、まだ大きな役割があるのか?。
 極端な出生率の低下、東京と地方の格差、アジアからの孤立という八方塞がりの状態の今こそ、大きく舵を切って、アジアの一員としてアジアの発展をともに喜びあえるような道を見いだし、地域主権の観点から多様な活動を創出していくという役割が広域計画にはあると本書「はじめに」は主張する。
 そんなことが、本当に広域計画に可能なのだろうか。少なくとも、そういったことに資することはできるのだろうか。
 それを解き明かすために、本書は次の3編に分け、論じている。


  I編 広域計画とは何か
   1章 広域計画と地域の持続可能性
   2章 広域計画の合意形成とプランニング手法
   3章 地域活性化と広域政策
   4章 広域的地域産業振興策による地域活性化戦略
  II編 ケーススタディ
   5章 広域計画の新たな展開
   6章 諸外国における広域計画の経験 
  III編 立案手法
   7章 地域の現状分析
   8章 広域計画の立案


 果たして本書が自ら発した問いに答を見いだせたのか。
 是非、本書をお読み頂きたい。
 以下に、僕にとって印象深かった点を紹介しよう。

持続可能性の大西指標(1章)

 地域の持続可能性は今や自明の公理のようになっているが、では、自分の地域の持続可能性をどう捉えたら良いのだろうか。
 大西さんは1章で一般的な、経済的豊かさ、社会的公平、環境保全の3つに加え、人口の持続性、都市空間の集積度を加えた5指標を提案している。


 人口の持続性は分かりやすい。いくら僕が死んだあとの話とはいえ、あまり極端に減るのは困る。
 では都市空間の集積度はどうだろうか。「都市空間の集積度が低く、人びとが離れ離れになって暮らしている社会も人間関係が希薄になったり、コミュニティ活動が困難になるうえ、行政サービスもままならないから、持続可能な社会とは言い難い(p26)」とされている。そうだろうか?。
 都市性という意味では集積度は必要だろうが、人間関係やコミュニティ活動に都市並みの集積度が常に必要かというと、ちょっと違う話のような気もする。たとえばゆったりした住宅地とか、田舎とか、それぞれのあり方があるのではないか。そのあたりをどう組み込んでいくか。広い地域での集積度の評価は難しそうだ。


 それはそうと、この五つの指標の評価例が1章の表4と表5に載っている。
 関西を見ると、3位に滋賀、5位に奈良、6位に京都が入り、31位が大阪、43位が兵庫、45位が和歌山と、2つのグループに綺麗に分かれている。
 京都に住む僕には気分が良くなる表だが、ちょっと本当なの?と思えてしまう。大阪のほうが腐っても鯛。やっぱり経済力も活力もあるように見えるのは、隣の芝は青いの類だろうか。

続く


○京都セミナー(2010.8.27)
広域計画と地域の持続可能性〜地域活性化の視点から〜
瀬田史彦・戸田敏行・福島茂 氏
http://www.gakugei-pub.jp/cho_eve/1008koui/index.htm


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大西隆編著『広域計画と地域の持続可能性 (東大まちづくり大学院シリーズ)