蓑原敬編著『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』〜大方潤一郎「まちづくり条例による国際標準の計画制度」(1)



 さて、今日は大方さんの「まちづくり条例による国際標準の計画制度」を簡単に紹介しよう。

持続可能な都市空間

 大方さんは前著『都市計画の挑戦』では「1章 都市計画、土地利用・建築規制はなぜ必要なのか」で、都市計画の必要性を次のように論じておられた。


1 建築規制の始まり〜市街地特有の危険の防止
2 公共施設配置の計画〜効率的な整備のために
3 土地利用配置の計画と規制〜隣近所に迷惑をかけないために
3 計画の確定性と柔軟性〜完成予想図としての計画から継続的再配置の計画へ
4 変容する地区環境の誘導〜共同管理の規約としての土地利用規制
5 誰がどうやって決めるべきか〜建築形態規制と密度規制(特に容積率規制)について
6 都市の境界〜市街地の非計画的拡散に対する規制


 今回もまた、空間に関わる計画制度がなぜ必要なのかを、持続可能性に関わる三つのE(Ecology, Economy, Equity)から説きおこされている。
 まず環境面については自動車交通への過度の依存など都市形態に関わる問題は避けて通れない。
 社会面についても、特に超高齢社会となり、建物や街のバリアフリー、交通アクセス、高齢者が社会から疎外されず暮らしやすい街など、どれをとっても、年金や医療などソフトだけでは解決できず、空間に関わる問題でもある。
 さらに経済についても、地域の内発的な経済の振興には地域のオンリーワン的な魅力の源泉となる歴史・文化・風景やイベントが重要であり、これまたソフトだけの問題ではない※1。


 「このように考えると持続可能な文明社会の構築のためには」「持続可能性の向上を可能とするような空間的な形態と特質を備えた人間居住空間(都市農村一体空間)を構築あるいは再編成することが不可欠になっている」。


 若干、紹介を飛ばして先に進むと、このような空間を大方さんは「街なか型日常生活空間」として提示しているが、その実現は、土地利用規制や環境税だけでは困難であり、人々の心をつかむ「車依存の郊外で暮らすよりもずっと魅力ある生活の場を現実に(しかもアフォーダブルなコストで)提供しなければならない」と強調されている。


 深読みすると、そういう生活の場に人びとが魅力を感じるようになってはじめて制度改革もできるということだろう。だが、制度改革ができないと、そういった空間も実現できないとなれば袋小路に入り込まざるを得ない。


 その突破口が、すでになされている法制度の改正をフル活用し、自治体(市区町村)の自主条例として基幹的な制度をほぼ全面的に組み立てることだと提起されている※2。

国際標準の空間計画制度


 次に大方さんは今日における国際標準の空間計画システムとは何かを示されている。
 都市計画の基本要素とは何であり、都市計画制度の基本型は何かをおさらいしたあと、国際標準の計画システムには、
 「都市農村総合土地利用計画であること」
 「地区レベルの協働街並づくりの仕組みがあること」
 「地方分権と広域調整を両立させる仕組みがあること」
 「空間形成管理を通じた諸施策の統合的調整があること」
が条件だとされる。


 最後の点が重要かつ微妙な点だろう。なぜ、空間形成管理が諸施策を統合するのか? 他の施策よりも偉いのか?
 そうではない。「空間計画システムは、それ自体でアプリオリな達成目標をもつものではな」く、「都市圏や個々の自治体の広範な都市政策を裏打ちするような役割」であり、あたかも「松花堂弁当の重箱のように、様々な政策に共通の枠組みを提供するような、空間形成とその維持管理を通じたプロモーター兼コーディネーターの役割を果たす必要がある」とされている。


 「ともすれば空間的には相剋的な関係に陥りやすい諸活動を、相乗的な作用をもたらすような関係に誘導することが空間計画の今日的なもう一つの役割である」。


 これは例えば、中心市街地に居住の場を提供するのも政策目標なら、木造主体の低層の生活環境を守るのも政策目標といったときに、一方が片方を収奪したり、つぶし合うのではなく、異質なものの積極的な相乗作用を組み立てるということではないかと僕は思う。
 すなわち市場のなかで人々の営為がつぶし合うのではなく、相乗効果を発揮して街をよくしていくような基盤をつくることではないか。


 明日はこれらを踏まえて大方さんが展開される日本の都市計画制度の課題と要件を紹介したい。



※1
 地域経済とハード系のまちづくりについては、『地域ブランドと魅力あるまちづくり』(佐々木一成、2011.2、学芸出版社)が、特産物ブランドと文化・環境ブランドとの相乗効果、それらを合わせた統合ブランドの力を強調している。

※2
 大方さんは触れておられないが、自治体の取り組みと同時に、「街なか型日常生活空間」を実現してみせる空間や建築、商業等の専門家、建築家や都市デザイナー、商業プランナーの創造力も必要だと思う。


続く