学芸セミナー「広域計画と地域の持続可能性」(3)

 最後に福島さんの報告を紹介しよう。

広域計画と地域ツーリズムの振興(福島さんの報告)

 観光の場合は、広域で取り組むことの意義は明確だ。福島さんが指摘したように、観光客も、そのニーズに応える旅行業者も行政の境界なんて意識しないからだ。
 だから観光客が一つと認識するエリア、認識してもらえそうなエリアで連携して観光振興に取り組もうという話は分かりやすい。
 だが、さきほどの瀬田さんの話で出てきたサービス供給圏としての広域と、観光客が意識するエリアと一致するのだろうか。また経済圏としてはどうなのだろう。


 たとえば塩の道で売り出すなら、三遠南信地域で完結するわけにはいかないだろう。
 素人考えかもしれないが、目的に応じて臨機応変に連携したり計画を立てたりするしかないのではないかと思う。だからそれぞれエリアが異なる広域圏が、何層にも重なることならないか。


 また観光圏整備法は中心となる地域を想定し、そこを宿泊の拠点にしていこうとしているが、紹介された南房総観光圏では、宿泊施設が点在し、選択と集中はあまりうまくいっていないとのことだった。


 福島さんは「3市1町がそれぞれの観光振興の取り組みを整備計画に位置付けながらも、自分たちの観光振興をやっています。むしろ補助金を取ってくるために南房総観光圏という枠組みを利用しているというところがあります」と指摘されているが、とっても素直な心情に思う。


 関西国際空港とその玄関口であるミナミを拠点とした広域観光を主張している人が、ミナミに宿泊して、奈良や京都に行ってもらえば良いのだが、奈良や京都が乗ってこないと嘆いておられたことがあったが、当たり前だ。だれが大阪に美味しいところを取られた喜ぶものか、と思うのは心が狭いわたしだけだろうか。


 その点、市内に宿泊施設があまりなかった飯田市が、昼神温泉など域外の資源との連携を求めたのは自然だと思うし、そういう姿勢があったから広域連携がうまくいったのではないだろうか。


 選択と集中は、外からみれば当然の戦略なのかもしれないが、選択も集中もされなかったほうが納得し、気持ちよく協力できるようになるには、すでにある資源を優先するなど分かりやすい基準が必要だろうし、また、とりわけ選ばれた地域の度量が必要なように感じた。


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