講演会「ぐるなびのこれまでと外食産業の現状」その2

外食産業の実態

 ここで福島さんが強調されたのは、確かに飲食店は厳しい状況が続いているが、回復している店が一部現れている点だ。
 その違いは何か?
 福島氏によれば、伸びている店の対策は「ぐるなびや自社HPの改良」「より良質なメニューやコースの開発」「料理・飲食の値上げ」「販売促進費の増額」が特徴だという。
 一方、低迷している店の対策は「新たな低価格メニュー」「クーポン等の配布」「料理の値下げ」などが特徴だ。
 だから、福島氏は価格競争はやめたほうが良いという。単純なアンケート調査をして「お客さんは安さを求めているんだ」と勘違いしてはダメだ。お客さんが外食店にいくのは、非日常性を求めるからだ。
 たとえば今日、私が部下を慰労に連れていって、高いからビールはやめて発泡酒にしとけとは言えない。それなら、まっすぐ帰った方がましだ。部下が満足するのが大切だから、驚きや愉しみが欲しい。もちろん、高すぎるのは困るが、安さだけを求めているのではない。


 気をつけて欲しいのは「より良質なメニューやコースの開発」であって、高級とは言っていないことだ。お金をかけなくても品質の向上は可能だ。
 だから、飲み放題の時間延長はやってはいけない。これはコストがかかる。
 しかし、プレミアムビールを飲み放題の対象に入れるのは良い。それまで入っていなかった焼酎を入れるのも良い。
 あるいは麻婆豆腐を本物の土鍋に出して入れるのもよい。満足度をちょっとだけでも上げることが大切だ。
 一方、大都市圏ではクーポンが多用されるなど価格競争に流されている傾向がある。
 マーケティングでは価格競争は市場を壊すというのが常識。優良企業は価格競争が起こったら撤退するぐらいだと知って欲しい。

質疑応答

 このあと、ぐるなび大学の中川さんから、すぐれもののHPの実例紹介があったが、これは画像がないとだめなので省略し、質疑応答から面白かったものを紹介しよう。

生産者を大切にするとは?

 まず私の質問から。
 ぐるなびはネットユーザー、飲食店とともに生産者を大切にしていると言われ、最初に見せていただいた「1億3000万人で乾杯」というポスターでも、今年は漁師さんなど生産者も一緒に喜んでいるという設定にされていたが、具体的にどんなことをされているのかを聞いてみた。
 関連した質問とともに答をまとめよう。


 まず、ぐるなびは99年から生産者に対するビジネスをはじめているという。たとえば食材展をやってお店と生産者を結ぶといった試み。
 マルシェもその一環だ。大阪では中之島でやっているが、単なる青空市場ではなく、生産者と飲食店の方にマルシェに来て頂いて話していただくこと仕掛けている。いわば生産者と飲食店のコラボレーションのきっかけをつくっている。


 飲食店の仕入れをみると、40%は一般小売店から買っている。そこで生産者と飲食店の間で情報が断絶してしまうことが問題だと思う。だから生産者と飲食店をダイレクトに結ぶことを目ざしている。


 また、2010年5月11日には、日頃から農業の大切さを訴えていて、また今は中国大使になった丹羽宇一郎さん、溝畑宏観光庁長官、総務省農林水産省経産省国交省の課長クラスの方、そして一橋大学の古川一郎さんや丸の内ブランドフォーラムの片平さんに参加頂いた「IT時代が生み出す21世紀の食生活フォーラム」を開いた。


 今まで外食産業はどの省庁の担当でもあり、どの省庁の担当でもないために困っていた。
 この4省庁に参加して頂くことが本当に大変だったのだが、経産省から参加した高原一郎関東経済産業局長が「たらい回しは止めよう」と発言くださったことが一番有り難かった。


 マルシェも初年度は1億を超える補助金で助けてもらったが、事業仕分けでばっさりと切られてしまった。
 しかし、これはぐるなびの社会的使命として続けようと決意し、補助金なしで今も続けている、とのことだった。

地産他消をめざす

 またぐるなび地産他消を標榜している。
 確かに地産地消は大切だ。地域があって、コミュニティがあって、味があるのだから、東京で食べては本物じゃないというのも理解できる。
 しかし、地方を回ってみると本当に疲弊している。都市のお金を地方に回すことが必要だ。


 また私(福島)の実家に帰ると、おばちゃんが300円でほんとに立派な車エビを売っていた。東京なら3000円で売れる。どうして市場に出荷しないのかと聞くと、量がまとまらないからだという。
 だが、飲食店なら宅急便で送ってもらえれば使える。
 ぐるなびにそんな大きなことができるわけではないが、たとえば東京の百軒の店が使えば小さな地域なら活気づけることができると思う。


 また会場にいたぐるなびの竹内さんからは、箱根でエステとグルメを組み合わせたハコネスタイルを提案し、成功しているとの報告もあった。
 さらに8月には美味しい伝統料理をユーザーに投稿してもらうといったぐる旅を立ち上げるということだった。

食べログとの競争について

 また「最近は食べログをつかっている。食べログのほうが網羅性がすごい」との意見に対しては、数年後にはすべての飲食店がぐるなびでも見られるようにしたいとのことだった。


 ただし、確かに生の声は面白いが、点数化した評価を載せることは問題だ。単純な話、58万軒の掲載店舗に対して、150万件の投票しかなく、平均すれば2.8票にすぎない。それで良いのか。また点数を評価してみたこともあるが、全く正確性を欠くものだった。複数のサイトの点数を比べてみても、相関がゼロだった。そういった点数を表示することはしたくない。


 しかし多少やらせがあっても「書いて楽しい、読んで楽しい」は今後取り入れてゆきたい。
 またページビューが上がった、下がったといったトレンドランキングは載せたいと考えている、とのことだった。

地産他消について

 最後に少しケチを付けておこう。
 地産他消地産地消に対する対抗する考えのように語ってよいのかだ。

地産地消とは

 私にとって地産地消は次の点で魅力的だ。
 一つは大量生産・大量消費、それに付随する画一化への疑問。紹介された車エビの例など、まさに典型的だ。そこでの問題は量がそろわないもの、規格外のものが不当に扱われること。
 もう一つは地域内経済循環。同じ品質のものが地元で取れるのに、わざわざ東京経由で遠方のものを買うのは馬鹿げている。新鮮さが勝負の食材ならなおさらだし、CO2(フードマイレージ)を考えても、これは当然だ。
 そして、自然に出来たものを食べるということ。旬に拘るわけではないが、年がら年中りんごやイチゴがあるのが大事なこととも思えない。

地域の範囲は様ざまでよい

 ただし、地元がどの範囲なのか、というと、人さまざま、場面によりけりで良いと思う。
 集落のような狭い範囲で自給自足しようというわけでもないし、京都では牡蠣はとれないから、食べないというものでもない。わざわざフランスから輸入したものよりも、瀬戸内海や伊勢湾のものを優先しようというだけのことだ。

 だから日本という単位で見れば、大規模流通には乗らないが、すぐれものの食材が余っている地域と、大消費地の飲食店をぐるなびがつなぐことは立派な地産地消だと思う。

食文化の再生と創生

 ただ、落とし穴もありそうだ。
 飲食店が常に安定した供給を望むと、大規模流通と変わらないことにならないか。
 ○○村の野菜のお店が100店舗も出来てしまうと、いくら東京でも飽きられないか。もし飽きられたら次は△△村だとなると、一過性のキャンペーンで終わってしまって地域を混乱させるだけに終わらないか。
 「今日は○○村から××が届いていますから、どうですか、お客さん」といった形、あるいは定番の○○村特産鍋の内容が、日によって違うというような食の愉しみ方を再び見いだしていかないと、日本の食文化や農業を守ることに繋がらないと思う。


 もちろん福島さんが指摘されたように、地域で産したものを、その地域の風土と文化に浸りながら食べるのは魅力的だ。しかしそれは観光の目玉にはなっても地産地消の一断面でしかない。それだけじゃ無理でしょ、という当たり前のことを言って、別の概念を持ちだして対抗する意味があるのだろうか。


 地域が自ら積極的に外に打って出るために使っている例も見たことはある。これは良い。
 しかし運動じゃあるまいし、「地方は疲弊しているから大都市のお金を地方に回そう」といった発想は、若干ずれている。流行りの言葉を借りれば「上から目線」。


 そうではなくて、それぞれの地域の本当に美味しいものを、本物のママ味わえる仕組みを正面から作って欲しい。それがナンバーワン企業の使命だと思う。