講演会「ぐるなびのこれまでと外食産業の現状」その1

 今回のフードツーリズム研究セミナーは「ぐるなび」の福島常浩さんのお話だった。大きくは、
 1 ぐるなびの創業と企業活動
 2 外食産業の現状
をお話された。

ぐるなびが狙ったこと

インターネットとの出会い

 ぐるなびがスタートしたのは96年。当時は大きな会社の「○○部」に1台か2台のパソコンがあるといった状態で、家で使っているのは余程のマニアか金持ちだった。
 だから「飲食店なんて、パソコンにもっとも縁遠い業界に、パソコンによる広報を売り込もうなんて、馬鹿かアホか」と言われたそうだ。いや、福島氏自身、まだ別の会社にいた時代で、創業者で現会長の滝さんからそういった話を聞いたとき、「こいつは何を考えているんだ!」と不思議に思ったという。
 実際、同様の事業モデルは、アメリカのCitysearchが少し早く立ち上げていたのだが、失敗した。だからか、Citysearchの人が先日来社され、「よくぞ、この事業をものにした」と感心されていたと言う。


 元々、滝さんは「IT技術で世の中が変わる」と予感していた。それを日本の文化を守る事に使えないかと考え、本業のNKBの利益を毎年10億円もつぎ込んで取り組んでいたが、そろそろ本業が危うくなってきたころ、一つの壁にぶち当たっていた。
 それは欧米人なら言葉の連呼でも言いたい事が伝わるが、日本人は、それではダメで、画像が必要だったということ。そして画像を送る事が、当時はとても大変だったことだ。

 そのとき、ある企業の研究所の友人の紹介でインターネットを見る事ができた。その画像転送の速さに驚かされ、その日のうちに作り上げたのが「ぐるなび」の事業コンセプトだった。

外食産業をターゲットに

 インターネットなら画像を送れる。なら、何に使うか?
 当時、外食店の広告媒体はタウンページしかなかった。タウンページには食べに行きたくなるような写真は載せられない。
 当時の飲食店は自動車産業に匹敵する大きさがあるのに、販促ツールがなく、お客さんから見えない、お客さんに情報を届けられない状態だったという。


 では、飲食店に販促ツールを提供する事が、どうして日本の文化を守る事に繋がるのか?。
 ぐるなび登場以前の飲食店は「1に立地、2に立地、・・・5に立地」と言われる状態だった。販促媒体がないから、どんなに賃料が高くても、よい立地にお店を出さなければならず、逆に表通りから少し外れた立地だと、お店が出てきてくれず、空きビルになっていた。


 販促手段があれば、たとえば4.5万/坪・月のビルではなく、1.5万/坪・月を選ぶ事ができる。かりに50坪なら毎月150万も負担が減る。そうすれば食材に凝ったり、内装を良くしたり、腕を磨いたりできる。安価な販促手段があれば、日本の飲食文化を守れるのではないかと考えたのだ。


 少し話がずれるが、福島さん話されている通りなら、これは裏路地や裏通りの町家のお店が増えたことの一因かもしれない。そうだとしたら、ぐるなびは日本のまちの文化も守ったことになる。さらに、そういった安い賃料での開店を可能にしたのだとしたら、若い人たちの起業機会をぐっと増やすことに貢献したことにもなる。
 京都で町家レストランが増えた時期とも符合する。一因にすぎないかもしれないが、興味深い。

ぐるなびの位置

 再び福島さんの話に戻ろう。
 現在、ぐるなびは最も信頼される飲食店検索サイトになっているという。
 食べログにページビューで負けているという指摘は事実だが、食べログぐるなびはコンセプトが違う。
 インターネットによるお店の検索サイトには、
1)飲食店探しのオフィシャルサイト
  ……ぐるなび
2)書いて楽しい、読んで楽しいエンターテイメント系サイト
  ……食べログ
3)クーポン系サイト
  ……FooMooなど
があるが、私(福島)も読んで楽しいのは食べログだと思う。
 しかし実際にお店に行く時にはぐるなびで探し、行く先が決まったら、クーポンをゲットしにFooMoo等にゆくという方が多いという。
 ぐるなびはお店から料金をいただいて掲載している。だから企業広告だという見方もあるが、責任もある。
 すなわちオフィシャルサイトとしての信頼感、たとえば値段に間違いがあれば、すぐに直すといったシステムを完備していることなどが、他サイトを2倍以上に引き離し、定番としてユーザーの方に評価されていることに繋がっている(調査は、マイボイスコム(株))。


 なおぐるなびはサイト屋さんではない。1800人近い従業員がいるが、サイトの運営には100人程度があたっているに過ぎない。
 では後は何をしているかというと、お店を訪問して密着して支援している部門や、お客様からの苦情やご意見を聞くコールセンター、飲食店の方々に外国人接客講座といった情報を提供しているぐるなび大学などを合わせて1000人ほどいる。
 ただしこのコールセンターも[アメリカがインドにコールセンターを置いているといった例とは違って]担当のお店を持っている、その店を知っている点に注目して欲しい([ ]内は前田補注)。
 またこれらを支える管理部門のほかに、研究部門というのか、もう一歩先を考えるための部門も数百人いる。
 あわせて飲食店のトータルサポーターを目指している。

ぐるなびの理念

 ぐるなびライブドアのようなベンチャー系の会社ではなく、創業者の滝はもう70歳代だし、私(福島)も50歳台だ。
 そして社訓は所期奉公だ。
 これは三菱の社訓の一つだが、事業は期するところ社会性である、すなわち「社会にとって意味があることをやっていますか」ということだ。それを基本に置いていれば、コンプライアンスといったことは自然に守られると思う。


 ぐるなびが大切にしているのは、まず顧客。具体的にはネットユーザーであり、飲食店であり、生産者である。次に従業員。そして社会。最後に株主だ。顧客にご満足いただけ、従業員が満足し、社会に貢献できれば、株主への利益は付いてくると思っている。
 どういうわけか、毎朝朝礼で四つの進化を斉唱しているが、そのなかで「ぐるなびは21世紀の食生活を豊かにするために進化し続けます」、これが一番大切だと思っている(と聞こえた)。

続く