第4回季刊まちづくり26号読書会(3)〜都市農地

提案13.都市内に散在する農地を環境整備に活かせ

農地と宅地が混在する市街化区域をどうするか

 柴田祐さんは兵庫県の太子町の市街化区域内に農地がたくさん残っている様子を示し、これをどうするのかと問題を提起された(p56、図1)。
 本来、10年以内に市街化すべき区域とされているところに大量の農地が残っていることがおかしいのだから、1)無理矢理にでも宅地化する、あるいは2)市街化調整区域に位置づけ直す(逆線引き)の2つしか都市計画法の理念にそった解決策はない。


 1)の宅地化について太子町での可能性を考えると、今まで同様の成長、宅地化のペースが続いても、宅地で埋め尽くすには30年は必要だという。今後、人口減少が進めば、この宅地化のペースは鈍ることは避けられないし、ひょっとすると逆転するかもしれない。


 2)逆線引きについては、すでにまだらに農地と宅地が入り交じる太子町で、ここまでは市街化区域、こっから先は市街化調整区域といった線は引きがたい。


 では、どうするのか。
 都市計画の失敗事例として残しておけば良いのだろうか。

市街化区域内の農地を位置づける

 地方都市で市街化区域内に膨大に残る農地を買い上げて公園にするといったことは、財政的に不可能だし、市民農園等で支えようとすると3大都市圏での試算によれば全世帯の4分の1が参加する必要がある。これは非現実的な数字だ。
 だいいち、地方都市には、農地は多く、市民は少ない。
 ここはどうしても、農家に農地を維持してもらう必要がある。


 ところが、仮に生産緑地を地方都市に適用しても、営農の継続については厳しい条件がつくとはいえ、生産緑地になるかどうかは農家の意志に任されるので、ここは生産緑地にふさわしいとか、ふさわしくないとかいった計画的な意志は働かない。


 そこで、柴田さんは市街化区域内の農地を認め、しかも積極的に農地を保全する都市農地地区の創設を提案された。


 その地区指定は、所有者の同意を必ずしも前提としない。また所有者による営農にも拘らず、多面的機能が発揮されるような利用ならOKとする。課税は「農地評価」とし、農地であり続けるかぎり継続するが、買い取りの申し出は認めないというものだ。
 こうすることで、農政による積極的な支援も可能とする。都市計画としても農地の維持管理に必要な基盤整備を行えるようになる、というわけだ。

提案をめぐる議論

 まず、混在してしまった土地利用をそのまま認めるのか、それはないんじゃないかという声が上がった。
 用途純化を目指した都市計画の敗北は認めるとしても、近くに住宅が迫っていれば、農薬も使いにくい。実際、家庭排水が田んぼに流れ込んでいるような現場もある。
 タダでさえ継続が難しい農業が継続できるのか、その仕組みがないまま、無理矢理、農地として指定しても意味がないのではないかといった議論だ。


 その通りだとも思えるが、生産緑地が一定の評価を得て、かつ農地としての持続可能性も少しは見込めるのだとすれば、その地方都市版があっても何もおかしくはない、とも思える。


 むしろ問題なのは、計画意志は働かないという欠点はあるとしても、生産緑地が営農と課税のバーターで成り立っているのにたいして、いったい何をバーターするのか?、その公平性、公正性は保たれるのか、だろう。


 p58の表2「都市農地地区(仮称)の特徴」によれば、都市計画側が得るのはここは残したいという農地の担保である。たいして農家側が得るのは、固定資産税の「農地に準ずる課税」から「農地課税」への減免、相続税の納税猶予だ。ただし相続税の納税猶予は土地利用が継続するかぎりであり、生産緑地のように終身営農すればチャラになるという訳ではなさそうだ。


 これはなかなか微妙なバーターだ。

都市農地の「農地に準じた課税」をどうするか


 阿部成治さんが「線引きによる都市周辺部の発展と農地課税のあり方」(川上光彦ほか編著『人口減少時代における土地利用計画』所収)で、地方都市の市街化区域内農地に適用される「農地に準じた課税」が、実は農地課税の数十倍の重税であり、ところによっては宅地並み課税よりも重税になると指摘している。


 なぜなら、農地に準じた課税とは、宅地と同額となることを目ざして数十年にわたって10〜20%引き上げていくものであり、宅地並み課税のように宅地の80%で打ち止めになることもなく、貸家住宅等に供した場合の減額措置もない。

 1976年度から、毎年引き上げが続いているので、たとえば福島県伊達市では田んぼの90%で、宅地並み課税で想定される税額を既に超えてしまっているという。


 阿部さんが言うように3大都市圏の農地よりも、地方圏の農地のほうが、虐められるのはおかしい。


 しかし、おかしな現状を逆手に取れば、「都市農地地区」に指定することによる税軽減効果は大きいとも言える。全国平均で1haあたり80万円/年になるそうだが、農地課税になれば1万円程度になるという。その差は小さくない。

市街化区域は10年以内に市街化されるべきとう幻想を捨てよう

 小浦久子さんからは、単に地方都市の残存農地だけを対象とするのではなく、これから空き地が増える郊外団地等において、積極的に農地を増やしていく仕組みに出来ないかとの指摘もあった。


 いずれにしても、空き地、空き家、放棄地をどうするかは、今後の大問題になるだろう。
 その際、都市計画がすべき事は二段階あると思う。
 まずはもはや幻影でしかなくなった都市像や、そこに向かうためのルールをやめてしまうこと。都市内の農地はいずれ消えるべきといった都市像がその典型だろう。
 第二段階は、多少とも農地の継続に役立つ方策はないものか、他の施策の手助けが出来ないか、考えてみること。
 第二段階、あるいは最終目標である農地の持続的な維持が難しい、できそうにないからと言って、過去の都市像にしがみついているのはやっぱりおかしくないだろうか。

(おわり)


○アマゾンリンク
・『季刊まちづくり 26


・阿部成治「第10章 線引きによる都市周辺部の発展と農地課税のあり方阿部」『人口減少時代における土地利用計画―都市周辺部の持続可能性を探る