『人口減少時代における土地利用計画―都市周辺部の持続可能性を探る』(3)

 引き続き『人口減少時代における土地利用計画』から幾つかの章を紹介しよう。

四日市〜市民と行政が合意した計画による都市周辺部の土地利用調整」(浦山益郎、稲垣圭二)

 四日市市は都市周辺部に1)大規模な開発許可済みの、しかしまだ開発が行われていない土地や、工場跡地を調整区域内に抱えていたこと、2)広大な耕作放棄地があること、3)資材置き場や土取などが見られること、4)沿道サービス施設の立地が進んでいること、5)大規模開発の許可基準(都市計画法旧34条10号イ)の廃止により調整区域内で計画的に土地利用転換をすすめる仕組みがなくなるといった問題を抱えていた。

 そこで一念発起して都市マスタープランを中心に、開発許可等に関する条例、都市計画まちづくり条例、景観条例をもうけ、市民の意志を尊重しつつ土地利用をコントロールできる仕組みを整えたという。特徴は、それぞれの条例はマスタープランに即して運用されるということにある。


 また都市計画まちづくり条例は、単に地区計画のガイドラインであるだけではなく、市民による自主的な提案を都市マスタープランの地域別構想ににつなげられる。しかもこれは、担当部署との調整を経たインフラ整備の10年間のアクションプランとして作成される。
 たとえば市街化調整区域にある県地区では、連合自治会や地区社協からなる県地区まちづくり委員会がまちづくり構想策定委員会を立ち上げ、構想案を策定している。


 そこでは生活基盤に関わる公共事業だけではなく、子育てや農業振興などに関わる提案が盛り込まれている。


 また行政は構想実現のために、たとえば「岡山の里山づくりによる住民のいこいの場のづいくり」に対応して、要綱をつくり市民緑地に指定したり、市街化区域に隣接し調整区域地区計画を策定することが確実な土地については、都市計画マスタープラン全体構想に、その土地利用転換を位置づけ直している。


 都市計画の枠組みをはみ出す提案を活かすために農業を中心とした里づくりプランと、都市計画を中心としたまちづくりプランに翻訳し直そうとしているが、農業行政と調整した地域別構想の策定には困難があるという。


 ずいぶん意欲的な仕組みだと思うが、住民が提案すれば農業も含めた構想が出てくるのは当然なのに、それを受け止める行政の連携が難しいというのは残念だ。農地が多い地区では、最初から農業行政と一緒にやるような枠組みが欲しい。

「景観計画による都市周辺部における土地利用管理の総合化」(小浦久子)

 最後に小浦久子さんの景観計画による土地利用管理の総合化を紹介しよう。


 よく知られているように、日本の土地利用は国土利用計画に基づく土地利用基本計画で「都市地域」「農業地域」「森林地域」「自然公園地域」「自然保全地域」の五つに区分されている。
 しかし農用地であっても、農用地指定の解除によって、また農用地以外の農地は農地転用許可で都市的な開発が可能だし、民有林も林地開発許可で転用可能だ。ところがこれらは都市的開発であっても都市計画の枠外になっている。いわば農地や森林から転用されれば自由気ままに使えてしまう。


 そもそも風景は土地利用の表れなのに、このようにバラバラに管理されていたため、特に都市周辺部などの景観が混乱している。


 まして、人口減少の時代を迎え、市街地と田園、農地、山林が入り交じる周辺部での流動性の高い地域の調整や、空地・放棄田などへの対応が求められているのに、従来の縦割りの仕組みでは役立たない。


 ところが景観計画はこういった土地利用の区分を乗り越え、農地や森林を含む市全体で作られていることがほとんどだ。その結果、都市計画の枠組みのないところでも、建築や開発行為の届け出を求めることができている。


 たしかに規制の強制力という面では景観計画は弱いが、方針や基準を開発に対する規制基準と考えるのではなく、地域環境の再編方針や将来像を地域の人々や、地域外からやってくる事業者に伝える計画ツールとしてなら十分に使うことができる。


 たとえば北海道の東川町では、町全体を対象とした景観計画が策定され、地域森林計画では把握しきれない小規模な開発や伐採、農業関連施設の整備も把握し、調整しようとしている。


 また望ましい地域環境の形成や保全のためには、最低基準を示す規制型より、よりよい環境を目ざす協議型制度が望まれる。○か×かを決める基準より、どのような開発であってほしいかを示し、協議調整できる仕組みが望ましい。
 残念なことに景観法には協議という概念がないが、意欲的な自治体では条例等と連動させることで、これを実現している。


 いち早く成熟社会を迎えたEUでは、いまヨーロッパ空間開発展望(ESDP)において空間計画という考え方が取り入れられている。
 それは、空間的なまとまりごとに機能を分担するとともに、交通・情報基盤により、そられの空間的なまとまりが連携するような地域構造を構想するものである。
 そこでは、土地利用は空間計画の一要素となっている。


 景観法と景観計画では、そこまではできない。空間を構想する法定計画としての可能性はあるが、土地利用との連携の枠を出る物ではない。しかし、景観を計画することを通じて、都市の形、地域の形を構想することはできる。それは空間計画的なアプローチの第一歩となるのではないか。


 以上、小浦さんの主張を僕なりにまとめ直してみた。
 微妙な点は本を読んで確認いただきたい。


 蓑原敬さんは『地域主権で始まる本当の都市計画・まちづくり』で、国土利用計画法都市計画法の一部を合体し、全域を都市田園計画法で覆うことを提案されている。


 都市計画法の改正をめざす多くの提案に共通している共通の了解事項になりつつある目標だと思うが、今の政治や行政の有り様を見ていると、改革には時間がかかりそうだ。


 そうであれば、景観法で、規制力は弱く、用途等には口出ししにくいとはいえ、まずは全域の土地利用を一体的に管理してしまおうという提案だと思う。
 できることからやる。良いことだと思う。

(おわり)


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原敬地域主権で始まる本当の都市計画・まちづくり