『ドイツの地域再生 コミュニティ・マネージメト』


 2年間ほどかけた『ドイツの地域再生 コミュニティ・マネージメント』が出来た。
 論文を見せてもらったのが一昨年の夏。科研費の出版助成には間に合いそうになかったので、住総研の出版助成に応募して、助成が決まったのが昨年の夏。そこから原稿の書き直し、組み版、校正を経て、ようやくできた。


 書名にはだしていないが、ドイツの社会都市という事業を取り上げた本だ。
 ドイツも日本同様に衰退が目立つ地域を多く抱えている。移民問題も大変で、コミュニティが体をなしていない地域もある。そこを、どうやって持続可能なコミュニティに再生するか?。
 EUの都市再生プログラムやヨーロッパ各国のコミュニティベースの再生方法に学んだドイツが打ち出したのが社会都市である。



左:ドルトムント市の職業訓練学校の様子/右:デュースブルク市ブルックハウゼン地区の交流拠点に併設されたカフェ


 その特徴は地域の主体性の確立(コミュニティ・エンパワメント)、統合型のアプローチ、そしてローカリズムの推進だによる、社会的・経済的・環境的に持続可能な再生を目指すことだ。
 そのなかでも真っ先に取り組むのがコミュニティ・エンパワメント。そのためにコミュニティ・ビューローを開設し、コミュニティ・マネージャーを雇う。その際、建築・都市計画・住宅などの専門家と、教育・福祉・労働・ソーシャルサービスの専門家が、ペアとなるのが理想だそうだ。

 日本では、せっかくまちづくりコーディネーターが行政から派遣されても、それは地区計画や区画整理といった事業を前提とした枠組みのなかでの支援で、地区の差し迫った問題が雇用だったり、福祉であったりすると、ずれてしまうという話を聞く。その点、コミュニティ・エンパワメントを最初に取り組むという仕組みは優れていると思う。
 そのなかで地域の自立性とニーズを引き出し、その結果として土地利用のルールが必要だとなったら、こういう制度、事業がありますという話になっていく。これが本来のあり方ではないだろうか。
 その点、ドイツのやり方は参考になると思う。



左:ライプツッヒ東地区の改修の必要な建物/右:グリュウナウ地区の改修済み住宅


 また予算規模は国全体で120億円程度で、一箇所当たり数千万円/年というところ。けっして大きくない。ただ、段階に応じて「地区における教育・経済・労働プログラム」や「ローカルソーシャルキャピタル」、また「都市改造」や「文化財的都市建築保存」など、さまざまな資金を社会都市実施地区に集約していく。ただ、国レベルでは省庁間の壁を越える資金提供は基本法で禁じられているので、省庁を超えた資金集約は自治体が担っているという。

 資金の出し手も多様で、日本の住宅公団の賃貸部門にちかいような役割を持つ住宅企業や、地元企業、福祉団体、教会、市民団体、そしてそれらと行政のマッチングファンドもあるという。


 社会都市はドイツで広く実施されているが、すべてが成功している訳ではない。まして日本とは社会背景も制度も異なる。そうした事例を紹介することに意味があるのか、知りたい人は専門家しかいないのだから、ドイツ語で読めば良いとする意見もある。バブルの頃の都市開発の紹介や、今なら環境分野の紹介、国レベル、EUレベルの紹介ならともかく、ドイツのコミュニティレベルの取り組みに関心を持つ人は少ないかもしれない。
 だが、この例は少しでも多くの人に知ってもらいたいと思った。
 幸い、助成金も貰えて無事に出すことができた。ちょっと高くて、ボリュームもあるが、是非、読んで貰いたい一冊だ。

(写真は室田さん提供)


○関連講演会、2010.7.15/京都記録
http://www.gakugei-pub.jp/cho_eve/1007muro/index.htm


○ブログでの講演会の紹介
http://d.hatena.ne.jp/MaedaYu/20100729


○本書の学芸HP
http://www.gakugei-pub.jp/mokuroku/book/ISBN978-4-7615-2485-2.htm


○アマゾンリンク
室田昌子『ドイツの地域再生戦略 コミュニティマネージメント