まちづくり市民事業(5)

5 まちづくり市民事業の地域展開モデル

 では実際にどのようにまちづくり市民事業は展開されているのか。

5-1 共有されたビジョンの元で、まちづくり市民事業が連携する

 鶴岡市中心市街地では都市計画マスタープランづくりのなかで地方の城下町都市としてのビジョンを市民と行政・専門家が共有し、地域協働の体制をじっくり築いて、取り組んでいる。


 「商店街を中心に複数のまちづくり市民事業が立ち上がると、地元金融機関などの地元有力企業家が触発されて、より民間的な視点でまちづくり事業を行う「株式会社・まちづくり鶴岡」を設立し、伝統地場産業の絹織物の製糸工場を活用したシネマ・コンプレックスと市民施設の複合開発や、子育て支援施設の運営等を展開するという流れ」が生まれたという(事例編参照)。


 このように、「この地域においては、地域に誇りを持ち、地域の伝統と文化、そして新たな都市づくりを目指す共通の基盤、文化的な土壌で活動する名望家たる市民」の役割が大きかった。


 なお、必ずしもこのようなプランづくりが必要なわけではなく、事例編の尾道のように「伝統あるまちの基盤に、現代的な市民の創造活動が多様にそして多重に重なり合いながら、相互作用と連携を産み出」す場合もあるとされている。

5-2 ソフトまちづくりの実績からコアとなる組織が生まれ、まちづくり市民事業を産みだす

 まちづくりの伝統の中から生み出されている例。
 「まちづくり活動はソフト事業としてのイベント等は自らの手で進められても、根本的な問題である物的な居住環境改善のハードルが高く、その一歩手前で留まっている例が多い。しかし事業のスキームを描き推進する力のある専門家との協働により、徐々にこの隘路が突破されつつある」。


 たとえば事例編で紹介している花巻土沢商店街である。
 ここでは「様々なイベント型のまちづくり活動を通じて形成した人的ネットワーク、地域での信頼、さらにはまちづくりの夢を共有することが、次への事業展開の原動力になっている」。

5-3 まちづくり会社が連鎖的に事業を生み出す

 高松市の丸亀町におけるまちづくり会社飯田市のまちづくりカンパニーは「コミュニティ・デヴェロッパーとして、利益を生み出し、それを地域社会に還元する仕組みを確立しつつある」例である。

 前者では再開発事業を主導した丸亀町商店街振興組合は「基盤に様々なまちづくり会社社会的企業を生み出し、その利潤を、一商店街を越えたまち全体へ再投資し、商店街全体の振興へ結びつけようとしている。ここでも高齢者福祉や子育て支援等の社会的使命を持った事業に乗り出し、地域と支え合う仕組みを生み出している」。

5-4 地域の文脈(要請)が生み出し、地域展開するまちづくり市民事業

 たとえば「社会的包摂をまちづくり市民事業で導く」例として町家を借り上げて改修して障害者就業支援の拠点を形成している広島市可部地区の例が紹介されている。


 グランドワーク三島は「水と緑で編集されるまちづくりプラットフォーム」として源兵川の水辺の再生から、新たな就業機会の創出、就業支援等を担う社会的企業へと展開し、既存組織を巻き込み市街地全体にまちづくりネットワークを形成している。


 中越沖地震で被災した柏崎市えんま通り商店街では、市民事業を次々に生み出しこれを連携させて、それを支えて管理・運営する「えんま通り復興協議会」が生まれ、震災復興まちづくりを市民事業で取り組んでいる(事例編参照)。

5-5 都市・地域マネージメントへ

 このような「多様なまちづくり市民事業の地域展開がすすむと、各種の「まちづくりパートナーシップ組織」が一つの都市・地域の中で次々と生まれ、集落でのまちづくり活動なども連携し、全体として、都市・地域再生の態勢が組まれる段階を迎える」。「すなわち都市圏全体としてのマネージメントの段階に至る」とされている。


続く


○参照


・佐藤滋さんへのインタビュー
 蓑原敬編著『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』に寄稿された「地域協働の時代の都市計画――まちづくり市民事業からの再構築」についてお聞きしました。
 http://www.gakugei-pub.jp/chosya/012sato/s_index.htm


○佐藤滋さんの本

原敬、佐藤滋他『都市計画根底から見なおし新たな挑戦へ


佐藤滋編著『まちづくりデザインゲーム


○季刊まちづくりの関連特集

「まちづくり市民事業と中心市街地活性化」『季刊まちづくり 21

「まちづくりから地域マネジメント戦略へ」『季刊まちづくり 29