関満博さん『「農」と「食」のフロンティア〜中山間地域から元気を学ぶ』脱稿(1)

中山間地域に何を学ぶのか?

 中山間地域にこそ、20世紀の成長型未来像にかえて選び取るべき未来の生き方が芽生えている、というのが本書のメッセージだ。


 日本にはもう、ガンガン成長していくような未来はないし、望まれてもいない。しかし、それに変わる未来像に自信がもてないから、世論も政策もグラグラし、景気が悪くなれば景気対策を繰り返し、GDPで中国に抜かれたと言えば、成長戦略が叫ばれる。


 マスコミを通して見える、そんな右往左往とは無縁なところで、実は生き方の革命が起こっているのではないか。本当の変革は辺境の地から起きる。いま、中山間地域で、静かな革命が起きている。
 本書は、この十年間、中山間地域を追い続けてこられた関満博さんが、都会人におくるメッセージだ。


 都会のオフィスで働く人びと、スーパーで暗い表情をしながら品物をカゴに放り込んでいる人びとと対照的に、集落営農の「現場」、直売所、加工場、レストランの「現場」では、人びとは輝き、訪れる人びとと交流を深め、新たな「価値」を生み出そうとしているかのようである。そこには、新たな「発見」と「感動」が横たわっているであろう。中山間地域は「自立」と「交流」の時を迎えているのである。(関満博『農と食のフロンティア原稿』、以下同様)

「農産物直売所」「農産物加工場」「農村レストラン」=元気のもと、三点セット

 いったい、中山間地で何が起こっているのか?
 関さんは三点セット+その背景としての集落営農に焦点を当てる。

農産物直売所

 女性たちが丹精をこめて作っても、形が悪いといった理由から農協の大規模流通に乗らない農作物を売っていた無人販売所から発展し、バラックに戸板1枚から出発した農産物直売所は、いまや「全国で1万3000箇所、販売額1兆円、さらに、この不景気の時期にも関わらず、毎年10%前後の伸びを示している」。

農産物加工所

 繊維・縫製の工場が海外に移転し、就業の場を失った女性たちが、生活改善グループ活動で培った味噌、漬物などの加工技術をもとに、小さな加工に取り組み始めている。
 昔は自家消費やお裾分けしか出来なかったが、今は、農産物直売所、道の駅、インターネットと宅配による全国への販売と、可能性が大きく広がっている。彼女たちは果敢に、偏見も持たずに、新たな可能性に挑戦している。

農村レストラン

 農村に広がりつつあるレストランには、UIターンの人たちによる都会のレストランに勝るとも劣らない素敵なレストランもあれば、温泉施設や道の駅に付設されているものもあるが、関さんが注目するのは集落型のレストランだ。


 これは集落等の人びとが地域の活性化を願って、地元の食材を使い、飲食を提供しているものだ。
 そばやバイキングが多いが、なかには予約を受けてから、地元の人びとが材料の採取に行くという究極の贅沢を味わえるところもある。


 経済的には、その付加価値の高さが魅力だ。
 岩手県葛巻町「江刈川集落」でそば屋を開いた高家氏は「10アールの畑で約2俵のそばが採れる。農協の買上価格ほぼ1万5000円だが、粉にすると7万2000円になる。生そばにして宅配で売ると18万円になる。さらに、食事として提供すれば48万円になる」と語っていると関さんは紹介している。

集落営農

 これら三点セットが広がった背景に、集落営農農業法人化にあるという。
 なぜか。


 日本の農業は実は兼業農家の女性によって支えられていた。彼女たちは家事、育児、介護を担い、そのうえ週末しか働けない夫にかわり、農業も支えていたのだ。まさに「24時間戦います」の世界だった。
 それが「集落営農」の活発化により女性たちが時間的余裕が生まれてきた。その余裕が農産物直売所や加工所といった新たなビジネスに向かう切っ掛けとなっているという。
 だから「中山間地域の集落で「集落営農」の話題が出ると、男性はほぼ全員反対、女性はほぼ全員賛成、といわれている」という。


 さて、これら三点セット+集落営農は中山間地をなぜ輝かしているのか。
 明日、考えてみたい。


続く