『都市計画の新たな挑戦』いよいよ組み版(2)


 昨日に続いて佐藤滋さんの力作を紹介しよう。

4 地域協働社会を築く「まちづくり市民事業」


 第4節では佐藤さんは次のように主張している。


 まちづくりをこれから実際に動かしていくのは、まちづくり市民事業だ。
 市民事業が「地域社会に立脚した市民と専門家の協働の組織による地域の資源と需要を顕在化することにより進められる事業」だとすれば、まちづくり市民事業は、市民事業のうち「構築環境・ビルトエンバイロンメントに何らかの形で関わる事業」である。


 その意義は「人間と環境の相互作用の中から多様な社会的ミッションの「解」が共創され、社会や地球環境への貢献などに関わる開かれた創造性を喚起する活動」であることにある。


 大方潤一郎さんが本書の他の章で述べているように、自治体において首長と議会と市民が協力し「やる気にさえなれば」相当なことは実現できる仕組みとなっている。
 また蓑原さんが強調するように関連法制度の改革も重要である。


 しかしこのような仕組みや制度があっても、21世紀の都市計画に期待されている役割を果たすには心許ない。必要なのは、補助金も公共事業も縮減されていくなかで、特別に市場性がある都市再生特別地区のような特殊な地域ではない「普通の地域」において、地域が協働の体制の中で、自ら大小、ソフト・ハードさまざまな「まちづくり事業」を立ち上げて実践し、目標やビジョンを実現することであり、その主体である。


 ではその主体はどこに求められるのだろうか。
 佐藤さんは企業の形態もNPO有限責任事業組合などに多様化していることも踏まえつつ、事業の仕組みと生みだす基盤を再定義することで、大きな広がりを見いだすことができるという。
 そしてなにより、そのような多様な組織の連携の形態(布陣)により、事業を生み出すプラットフォームが形成され、さらに事業を計画しマネージメントできる連携組織(パートナーシップ)となることに、その主体の可能性を見いだしている。


 このようなパートナーシップが立ち現れたときこそ、成長を賢く制御する社会的技術としての都市計画ではなく、まちづくりの蓄積のもとで自ら実践し運営する「自律的都市計画」が見えてくる、という。

5 市民事業を核とした多主体連携の姿

 このように価値観の共有をもとに、社会的課題解決へのモチベーションとともに、社会的共通資本としてのまちの将来像を共有し、その実現を目ざすまちづくり連携組織が、まちづくり市民事業の実践のなかでに見えてきている。

 たとえば前著『都市計画の挑戦』であげた七つの都市像の一つ「歴史的町並みの保全」であれば、個別の民家へ公的な補助金が出て改修事業が進むといったレベルから、すでに京町家作事組、大阪の長屋再生協議会など、より広いまちづくり事業への展開を図り、その収益を次の保存再生事業に循環させる段階に進んでいる。


 「小規模事業の連鎖的展開」の都市像は、上尾の共同建て替えの経験をもとに、事業からその後の運営組織を生み、そこから主体的に次なる事業を連鎖的に生み出す仕組みが、高松丸亀町再開発などで見えてきている。


 佐藤さんが長年関わってきた鶴岡市中心市街地の場合、まず、「元気居住都心構想」の中で提起されたNPO法人「城下町トラスト」が武家屋敷を利用した「短中期滞在施設・皓鶴邸」ができ、次に土地所有者と有志による有限責任事業組合が企画し、入居者が一時金を出資し、合同会社が事業化と運営を担う元気な高齢者のための賃貸コレクティヴ住宅・クオレハウスを実現した。


 さらに、これと連携するNPO法人による市民活動拠点の形成・運営事業、山王商店街の街路整備と賑わい拠点形成、そしてこれらに続く「(株)まちづくり鶴岡」による木造の歴史的織物工場(松文産業)の修復による「まちなかシネマ館」の開業、昭和初期のRC建築である恵比寿堂薬局のコミュニティカフェ(予定)などが連鎖的に展開しているという。

6 地域協働の都市計画が備えるべき制度と仕組み

 まちづくり市民事業というボトムアップの方法で、都市計画が現代の課題にすべて対応できるというわけではない。冒頭に述べた都市計画の三つの挑戦はまちづくりパートナーシップの実践の基盤のもとで、これらを生かし全体像を整える制度と仕組みが必要である。


 その制度と仕組みとは、次の三つである。
 1)「まちづくり連携組織(パートナーシップ)」の自律的な空間制御を保証し、総合的なビジョンを実現するための地元に権限のある「特別地区計画」の制度、
 2)それらを編集・統合して全体としての都市・地域空間を整合的に組み立てる計画とその内容の調整・進行管理の仕組み、
 3)多様なまちづくりパートナーシップの利害を調整し、多様な主体の共創の態勢を整える仕組みであり、第四は、それにあわせて様々な施策を都市・地域空間の中で連携し統合する仕組み


 これこそが、地域協働の時代における都市計画のあるべき姿なのだ。

続く

○アマゾンリンク(佐藤滋さんの本)
原敬、佐藤滋ほか『都市計画の挑戦―新しい公共性を求めて』(学芸出版社、2000)


佐藤滋ほか『まちづくりデザインゲーム』(学芸出版社、2005)


佐藤滋ほか『まちづくりの科学』(鹿島出版会、1999)


佐藤 滋+城下町都市研究体『図説 城下町都市』(鹿島出版会、2002)