『都市計画の新たな挑戦』いよいよ組み版(1)

「地域協働時代の都市計画」

 5月14日に紹介した蓑原敬編著『都市計画の新たな挑戦』の組み版が始まった。編集やレイアウトを担当するスタッフも決まり、いよいよ校正作りだ。
 今日は、その中でも力作の一つ、佐藤滋さんの「地域協働時代の都市計画」を紹介しよう。

 佐藤さんは時代状況を1)地域協働の時代と捉え、そのなかで2)多主体連携により具体的なまちづくり市民事業を動かすことが大切であり、とりわけ3)実行組織であるまちづくり連携組織(パートナーシップ)の形成が鍵となること、そして4)これらの関係を調整し編集し、施策を統合して共有された都市像を実現するものに都市計画を変えなければならないと説く。

1 地域協働の時代の胎動

 では地域協働の時代とは何か?
 佐藤さんは前著「21世紀の都市計画の枠組みと都市像の生成」(『都市計画の挑戦』所載)のなかで、21世紀のまちづくりを取り巻く構図として、グローバル指向←→ローカル指向、ローカルな共同体(存在論的世界)←→市場経済(目的合理的世界)という縦・横二軸の対立軸を提示する。そしてこの相容れない二者による閉塞状況を打ち破る物として、市場経済のもとでビジネスを指向しながら地域への指向も持つコミュニティビジネス等の登場と、存在論的世界観を持ちながら、グローバルなネットワークのなかで活躍するNPONGOを対極とするもうひとつの軸を提示していた。


 そして現在、これらの三つの軸が平面上にあるとすれば、奥行き方向に直交するように、新たに私益指向←→共益・公益指向が鮮明になってきているという。コミュニティビジネスはさらに公益・社会貢献を意識した社会企業に深化し、一方、グローバル企業も社会的責務を意識し始めた。
 すなわち、広い意味での社会的経済、連帯経済、分かち合いの経済が姿を現しつつある。


 そのようななかで、まちづくりもまた90年代に萌芽した地域経営に取り組むまちづくりの第3世代が、協議会などの形で協働社会の実体を創りつつある。
 すなわち様々な担い手が協働して主体的にまちづくりを担う、地域協働の時代の可能性が見え始めている。
 では、都市計画はこのような時代に、いかに貢献できるのだろうか。

2 地域協働の時代の都市計画と都市像

 地域協働の時代とは何か。それは1)共治の仕組みであり、2)共創の仕組みであり、3)分かち合いと支え合いの仕組みである。
 そういった時代にあって、都市計画が扱う都市は、多様な構築環境(ビルト・エンバイロンメント)全体である。


 佐藤さんは前著において一つ一つが総合的な生活や社会の像と結びついた六つの部分の都市像と、それらを統合する全体像を含めて七つの都市像をあげている。
 それは
 1)歴史的地区の保存と再生
 2)多機能複合開発(ミックスト・ユース・デヴェロップメント)
 3)巨大開発の分節化
 4)住民・地権者主体の市街地の連鎖的更新
 5)デザイン規範による漸進的な空間変容
 6)アーバンヴィレッジの再生
           +
 7)六つの都市像をあわせた都市の全体像
である。


 これらは単なる物的な空間像ではなく、それを司る社会経済的な仕組みが整合し、その総体が都市像として像を結びつつあるものである。


 より具体的に言えば、地域協働の時代において、都市空間は、公私の領域が峻別された近代都市のあり方でも、閉鎖的なゲイテッド・コミュニティでもなく、少なくともコミュニティ内部では共用のコモンズが多様に用意され、協働でデザインされ、維持管理され、交流の場として用いられる。そこでは町家などの地域の資産が活かされ、課題に対する解がコミュニティ空間として織りなされるであろう。


 これらの都市像は時には境界を接し、重なり合う。あの市場経済優先の、それも都心開発においてさえ、イエバ・ブエナ・センターのように、裁判のあと設立された非営利のコミュニティ開発センターにより地域との協力体制が築かれ、児童公園やスケートリンク、こども博物館が連続的にデザインされ、グローバルな市場経済の空間に、柔らなか雰囲気が入り込んでいる。

3 都市計画は何に挑戦するのか

 このような時代にあって、事前確定的で固定的な都市計画マスタープランを、規制と誘導、そして公共事業によって長時間をかけて実現するという近代都市計画のパラダイムはすでに崩壊している。社会運営の仕組みも大きく変わり、課題が多様化したのだから、都市計画も変わらなければならない。


 では、そのために都市計画が挑戦する課題は何か。
 それは次の三つの挑戦である。


 第一は多様な主体の連携・連帯して「解」を見いだし、都市像を共有し、それを実現する「多主体連携の仕組みとしての都市計画」である。


 第二はソフト・ハードに関わる多様で複雑な課題を統合的に解決する方法のとして、ソフトを含みつつも最終的には物的な世界、構築環境に還元させて問題解決を図る「施策統合を実現する仕組みとしての都市計画」である。


 第三は広域でも、身近な生活環境レベルでも、あまりに乱雑で不整合なものとなってしまっている構築環境を、生態学的な理にかない自然風土条件と人間活動が一体となった「自律的なビルトエンバイロンメントをデザインし再構築する都市計画」である。


 このような三つの挑戦において、従来の公共事業と法、補助金による狭義の法定都市計画はまったく役に立たない。


 しかし、我われは都市計画を改革する有力な蓄積として「まちづくりの実践」を積み上げている。


 三つの挑戦のうち多主体の連携はまさにまちづくりの実践における方法論であり、施策の統合はまちづくりを重要な要素とするコミュニティ計画や都市総合計画の中で語られる内容である。

 そして整合的なビルトエンバイロンメントは、まちづくりのプロセスを通して市民と専門家の共同作業により達成される。

 このようにまちづくりが徐々に成果をあげ、実践的な力となりうる状況が生まれているなかで、まちづくりの成果を総体的な社会システムとして組み立てる広い意味での都市計画の制度が必要なのである。
 すなわちまちづくりを包摂する「自律する都市計画」への改革が求められている。


 では、そのような改革の道筋は見えているのか?。
 第一はこのような内容を明確に法制度に組み込むという方法である。
 第二は、まちづくりの先例を積み上げ、基礎自治体をベースに一般モデル化し普及させるという方法である。
 実際には、この2つを同時進行させることが重要である。

続く


○アマゾンリンク(佐藤滋さんの本)



 


原敬、佐藤滋ほか『都市計画の挑戦―新しい公共性を求めて』(学芸出版社、2000)

佐藤滋ほか『まちづくりデザインゲーム』(学芸出版社、2005)

佐藤滋ほか『まちづくりの科学』(鹿島出版会、1999)

佐藤 滋+城下町都市研究体『図説 城下町都市』(鹿島出版会、2002)