『都市計画の新たな挑戦』いよいよ脱稿(2)

これからの都市計画の望ましいあり方

 昨日紹介した、六つの疑問を踏まえ、西村さんは次の都市計画のあるべき姿を素描されている。

(1)地域の魅力をつくり出す都市農村計画へ

 最低限の基準という建築基準法のくびきを脱し、「都市と周辺農村の調和、地区環境の調和、まわりの町並みとの調和など、環境調和を」目ざすこと、地域の歴史や文化を最大限尊重することから、出発するものであること。

 そのうえで、「創造性の指標として景観を重視した都市計画が求められているのに加えて、新しい建築デザインや都市デザインの提案を積極的に計画に取り入れていく」こと、地方分権のなかで標準化を排し、例外を認める裁量の余地のある都市計画となること主張されている。

(2)ストック重視の都市計画へ

 インセンティブによってフローを導くことにより、ストックの質を上げるという従来の基本姿勢を改め、ストック重視に転換する。
 そのため健全な中古市場の創出と、それぞれの都市が目ざす目標像を具体的な空間像として明示すること、同時に、その都市像を二次元の図面ではなく、三次元で見せていくような手法の必要性を主張されている。

(3)諒解深化のための都市計画へ

 都市のめざすべき空間像には、唯一の解は存在しない。
 だから、関係者間の議論のなかで諒解を深め合意を形成していく必要がある。
 「言い方を変えると、新しい地域社会、そして新しい市民を生み出すことを後押しするものとして都市計画が機能することが求められているのである」。

(4)総合政策としての都市計画へ

 「これからの都市計画はたんなる土地利用規制や建築物規制にとどまらず、かといって従来型の都市計画事業一辺倒でもなく、交通政策や経済政策、農業政策、さらには福祉政策や人口政策と表裏一体のものでなければならない」。
 「しかしこれが実現するためには、地方がそれぞれに力をつけて、自らの力で都市計画を実施していく力を持たなければならない」。

ストック重視へ、さらにもう一歩

 六つの疑問は分かりやすい。少なくとも(1)〜(5)は、右肩上がりの成長を期待し、目の前の都市とは全く違った新しい都市を求めていたがゆえだろう。


 木と紙と土でできて、空襲であっという間に燃えてしまうような街はこりごりだ。
 新しい建物ができるなら、少なくとも今よりは悪くなるはずがない。
 その意識が国民に共有されていたから、既存の都市をリセットするような法律が支持されたのだろうと思う。


 鉄腕アトムの街に憧れていた小学校の頃のことを思い出すと、僕も日本の街は遅れている、早く近代的な高層ビルが建ち並ぶ町に一歩でも近づきたいと思っていた一人だったと思う。
 しかし、もうそんな前提はなくなっていることは明らかなのに、法制度も、人の意識も、変わらない。


 だから、提言のなかでももっとも説得が難しいのが、ストック重視への転換ではないだろうか。そしてこれがしっかりと受け止められないと、(1)も(3)(4)も、「新たな成長戦略」を追い求めることになってしまうかもしれない、と思う。


 ところで、西村さんは、ストック重視への転換のために、健全な中古市場の形成と、それぞれの都市が目ざす目標像を具体的な空間像として明示することを上げておられるが、後者については、どこでもそういったことが必要なのだろうか。必要だとしても、それはどんな風に描けるのだろうか。


 ストック重視ということは、簡単にいえば目の前にある建物や町を大切にしようということだと思う。さらに言えば今ある現実を愛することではないだろうか。
 目標とする都市像といった言い回しに、現状とは違う、そこから大きく飛躍した新しいものを描くという成長時代のニュアンスを感じる。


 もちろん、場所によって、あるいは時期によって様ざまなのだろうが、ストック重視のために必要な都市計画の思想は、目標とする都市像に向かって変化していくことではなく、ストックを毀損しない範囲に変化をコントロールすること、できれば少しでもよくする方向に変化を誘導することのように思う。そういう姿勢を表すより適切な言葉がほしい。


 ところで、「言い方を変えると、新しい地域社会、そして新しい市民を生み出すことを後押しするものとして都市計画が機能することが求められているのである」ってのは、とても気に入った。とくに「後押し」が良い。
 都市計画そのものは目的ではない。役だってこその都市計画だ。
 これから「受け売り」させてもらおう。


○西村幸夫さんの本(学芸出版社


・蓑原敬、西村幸夫ほか著『都市計画の挑戦―新しい公共性を求めて』(2000)


・西村幸夫編著『観光まちづくり―まち自慢からはじまる地域マネジメント』(2009)


・西村幸夫、埒正浩編著『証言・町並み保存』(2007)


・西村幸夫編著『路地からのまちづくり』(2006)



  


・西村幸夫編著『都市美―都市景観施策の源流とその展開
』(2005)


・西村幸夫編著『日本の風景計画―都市の景観コントロール到達点と将来展望』(2003)


・西村幸夫編著『都市の風景計画―欧米の景観コントロール 手法と実際』(2000)