観光のユニバーサルデザイン京都セミナー・報告2

ルーブル美術館のエントランス


 伊澤さんは今回もルーブルのピラミッドをべた褒めにしていた。
 本のカバーにも使っているぐらいだから、とっても良い例だと本書では主張しているのだが、本当にそうだろうか。
 たとえば東本願寺の前の広場に、あんなものができたら広場の場所性はガタガタになる。


 ピラミッドが造られたとき、フランスでも激しい論争になったそうだが、それは「ピラミッドそのものの価値ではなく、その形状や素材の象徴性をめぐってなされていた。そして、建設に賛成する立場からは、それらの象徴性がいかにフランスにおいて歴史性を持っているかが主張された」のだそうだ(荒又美陽http://www.keisen.ac.jp/faculty/human/international/teacher/aramata-miyou.html。)


 最初、大衆紙が批判の狼煙をあげ、その反響があまりに大きかったため、関係者の1人からは、気にいらなければ壊せばいいんだ、とその可逆性に逃げ道を見いだす発言もあったという。


 また、手狭で収蔵品の管理も十分にできなくなっていたため、当時ルーブルにあった財務省を移転し、ルーブル全体を美術館に改造すること自体は、好意的に受け止められていた。そのためには地下空間の確保、その採光のために中庭に穴をあけるという計画上の必然性があった強調されたという。


 しかし、やがて論争はフランスらしいかどうかに移っていく。ピラミッドはエジプト起源だからダメだ。いや、フランスにだってピラミッドの伝統がある、いや大きな反発がある革新的なものをつくることこそフランスの伝統だといった話ばかりだったと言う。

 (荒又「都市景観における認識の変容〜パリのモニュメント論争から」http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/15280/1/ronso1320200860.pdf)。


 いかにもフランスらしい。
 また論争は反対派の要求に応じ実物大模型をつくることで、むしろ収束したという。それもナポレオンの前例を引きながら要求されたというのだから、フランスへの拘りがすごい。
 一方、荒又さん以外の資料も探したのだが、遺産の真実性とか、完全性をめぐる論争があったのかどうか、世界遺産登録の際に問題にならなかったのかに触れた日本語の記事はネットでは見つけられなかった。

ボーム美術館、消えるスロープ

 ルーブルに続いて紹介された写真のリフトの拘りは凄い(元は写真だが著作権上の問題でスケッチにしたのが下記)。
 収納されると階段にしか見えないが、階段の手前の平場と階段部分がぐぐっと上がってきて、階段の上から平場の上までまっすぐ車いすで入れる。そしてこんどは下がっていって、車いすは平場に出られるという仕組みだ。
 おそらく階段の段ごとに独立して昇降するのだろうが、そこまでする必要があるのだろうか。



 


 質問では、こういうものをつくっても日本では手すりがないからダメだ、法律が厳しいという意見が出ていたが、是非はともかく、手すりも昇降させることは技術的には可能だろう。
 しかし、そこまでしなくても、たとえばこうしたリフトをどこかにしまっておいて、いざというときに持ってきてはいけないのだろうか?


 川内さんの『ユニバーサルデザインバリアフリーへの問いかけ』によれば、特別な待遇を必要とする物はユニバーサルではないという。昇降機付きのエスカレーターは大げさで介助が必要になる。だからバリアフリーであってもユニバーサルではなく、その点、エレベーターの方がずっと良いと言う。
 それには納得できるし、どちらかしか付ける余裕がないなら、エレベーターを付けるのが良いだろう。
 しかしこの例では、介助が不要になっているのだろうか。
 手すりがないから美しいが、人がついていないと危ないのではないかと思う。

ユニバーサルデザイン思考を身につけたい

 偉そうに書いてしまったが、普段からユニバーサルデザインを深く考えている訳ではない。
 帰り道、講演に参加された方がバスの入口で待っている。
 なかなか動かないな、なにしてるんだろう、ここは手伝わんとアカンのかな、と躊躇していたら、運転手さんがでてきて、ヨイショと車いすをもちあげ、バス内に押し入れていた。
 この場合、手伝った方がよかったのか、黙ってみていた方がよかったのか、どうなんだろう。それすら慣れていないと分らない。
 ただ、ノンステップで、歩道の高さとぴったりとあい、すき間無く寄せられたら、こういう苦労はなくせる。


 また懇親会のあと次の店に移ることになったが、祇園祭で近くの店が開いていなかった。
 だからタクシーで移動することになったのだが、一緒に来ると言っていた大きな車いすの人がタクシーには乗れないので帰ると言われる。
 車いすが入れる店かどうかは確認したのだが、バスや地下鉄を乗り継いでも結構遠いところだ。そこまで思いつかなかった自分を恥じた。

番外〜中丸三千繪さん熱唱

 このようにしてたどり着いたお店で一休みし、秋山先生の奥様を誘って酒席を抜け出し、ブライトンホテルのロビーコンサートに行った。
 ちょうどこの日は中丸三千繪さんの出番。伴奏は菊池真美さん。


 予定のプログラムが終わると、さあ、これから第2部です!と、なんと2時間近く歌い続けてくれた。
 だんだん調子が出てきたという感じ。音楽祭576回目で最長記録だとか。
 ご自身も伴奏家の奥様も大満足。
 帰りは豪雨だったが、それもさほど気にならない、興奮に満ちたコンサートだった。


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川内美彦著『ユニバーサル・デザイン―バリアフリーへの問いかけ