「地域づくりの視点から都市計画制度に提案する」連続ワークショップ〜その2(続き)〜

 連続ワークショップの2回目、松原さんの報告を紹介しよう。
 次回は8月4日(水)。是非、参加ください。

提案17.密集市街地の路地へ対応する

 松原永季さんからは自らが取り組まれた駒ヶ林を事例に、密集市街地への取り組みについて報告があった。

阪神・淡路大震災の教訓

 地震の被害が大きかったのは戦災復興区画整理ができていなかった密集市街地で、亡くなられたのも多くは木密の居住者であった。
 そして復興にあたっては、ごく一部の地区には区画整理や再開発が投入された。
 そこにはヘクタールあたり5〜15億円という巨額が投入されたが、残ることができた居住者は2、3割しかいなかったという点で課題を残しているという。


 それ以外の地区では、ほとんど支援はなかった。そのためか、事業が投入されなかった密集市街地には、未だに再建されない空地、老朽家屋などが多く、また駐車場が増えているのが現状だとのことだった。

密集市街地の路地への現在の対応

 松原さんによれば、現在、路地を生かせるまちづくりの手法としては次の五つがあるという。


 1)42条3項道路
 2)43条ただし書き許可
 3)46条壁面線指定
 4)86条連担建築物
 5)街並み誘導型地区計画


 これらの内容と問題点については『季刊まちづくり26号』をお読み頂きたい「。
 ただ、確かに法善寺横町における86条連担建築物の適用、京都祇園南等における42条3項道路の適用など、路地を生かしたまちづくりの可能性は開かれているのだが、バッと広がる雰囲気ではないようだ。

駒ヶ林地区での取り組み

 この地区では松原さんをはじめとする関係者の努力で、路地を生かしたまちづくりが進んでいる。
 これについては少し前の報告だが都市環境デザインセミナー「路地のまちづくり(2007.2)」で松原さんが詳しく報告しているので見て頂きたい。


 おおざっぱに言うと、駒ヶ林1丁目で近隣住環境計画を策定し、地区内の路地を3項指定、43条ただし書き、さらには壁面線指定も併用した空地などにより、路地を残しつつ、一定の安全性を担保しようというものだ。


 ここで近隣住環境計画とは神戸市独自のもので、住民がまとまって計画を策定すると、神戸市が使える建築基準法等の「ただし書き」による緩和をまとめて適用しようというものだ。
 ただし近隣住環境計画があると必ず緩和が適用されるということではなく、増築や新築といった建築行為をする場合、改めて、建築基準法上の手続きが必要となる。また近隣住環境計画がないと、絶対認められないというわけでもない。
 おそらく法律との整合を気にかけた結果だろうが、分かりにくい制度となっている(同セミナー、神戸市都市計画総局建築指導部建築安全課 狩野裕行さんの説明より)。

密集市街地の路地に対応するための改善提案

 松原さんから提起された密集市街地の路地に対応するための改善の提案は下記の六つである。
 1)2項道路の指定基準の見直し、積極的に指定できる体制づくり
 2)3項道路の指定基準の見直し、積極的に指定できる体制づくり
 3)2項、3項道路指定が必要な路線の選定に関する体制づくり
 4)3項指定に関わる規制と緩和の基準をつくる
 5)2.7m未満の道路指定に関わる規制と緩和の基準をつくる
 6)路地に係わるファシリテーターとしての専門家の派遣体制をつくる

議論に触発されて

2項道路の指定は可能か?

 2項道路は、50数年前の建築基準法改正時に既に建物が建ち並んでいた幅員4m未満の道について指定されることになっている。
 4m未満の道は建築基準法上の道路とは認めない。しかし既に建ってしまっているところは経過措置として2項道路とし、建て替え等の際に道路中心線から2mのセットバックを義務づけたものだ。
 だから改正時に指定されたところは良いが、今からとなると大変だ。


 2項道路に指定されていたら、個々の家が建て替えに際してセットバックすれば良く、敷地に十分な余裕があれば、さほどの問題はない。
 だが、路地奥のお家などで、2項道路にすら指定されていない道にしか面していないお家は、建て替えの際にセットバックしても合法的には建て替えられない。その路地に面するお家がみんな協力して一斉にセットバックし、4mに拡幅しなければならない。
 これでは建て替えや修復が進まないので、老朽化が進んだり、空き地になってしまうという訳だ。


 法の改正当時は、こんなに長い間、2項道路が4m未満のまま存続し続けるとは思わなかっただろうし、まして2項道路にすら面していない土地は、さっさと買いまとめられて、より大きな敷地になり、近代的なお家やビルが建ち並ぶと夢想していたに違いない。なにしろ日本の住宅の平均寿命は30年に満たないし、空襲の恐ろしさを身をもって体験した後だから、路地奥の燃えやすいお家なんか、まっさきに叩き売られ、消えてゆくと思ったのだろう。
 だが、そうはならなかった。


 だから、せめて2項道路に指定して、自力更新を促したい、2項道路を増やしたいという思いもある。
 しかし仮に50数年前に既に建ち並らんでいたんじゃないかという話になっても、よほどの確たる証拠がないと、反対する人がいると行政としては無理矢理指定するのはしんどい。
 そして反対する人はいるのである。


 その路地の出口の人、角地の人はすでに4m以上の道路に接しているので、横の路地が道路であっても道路でなくても関係なくお家が建て替えられる。そのうえ、路地が2項道路に指定されると、そこからセットバックしなければならなくなる。斜線制限なども厳しくなるかもしれない。
 なんで、そんなことに協力しなければならないのか?ということになってしまう。


 やはり、出入口部(のど元敷地)については、行政がセットバック分を買い上げるなど、なんらかの補償をすべきだろう。そうすることで建て替えが進めば経済波及効果もあるし、路地奥の敷地や建物の評価があがり固定資産税も増える。そのぐらい、したって良いじゃないかと思う。


 ただし、出入口部の敷地が狭小でセットバックをすると十分な延べ床面積がとれなくなるとか、奥の人が固定資産税等が上がるのがイヤだとか、難問が残る。だいち、この方法では4m未満の路地は残らない。

住民任せで良いのか

 「路地を介してコミュニティを守りたい。路地の良さを担保した上で、建物の更新をはかりたい」という松原さんや神戸市の担当者の思いは立派だ。
 また「地域のために、損得を抜きにして協力しました」といった美談を聞いたことがあるが、いつもそれを期待するのはおかしい。住民主体と言っても、一方では経済的な損得があるのは何もおかしくない。


 しかし、松原さんも散々嘆いていたが、区画整理や再開発となると、億、十億のお金がかけられるのに、密集市街地、それも住民が苦労して計画を策定したところには、ハードや土地の買い上げには一銭も出さないとは、あまりにおかしい。



 京都には袋地が3000本あるという。仮に神戸も同じ数があるとして、1箇所100万円を出しても30億だ。再開発2ヘクタール分にしかならない。
 住民主体、市民主体は良いのだが、行政は出すところは出す、主導するところは主導するとなってほしい。


 なお路地をめぐる法的な問題については小泉秀樹さんの「路地を活かしたまちづくりに向けて〜制度活用の最新動向」(西村幸夫編著『路地からのまちづくり』)に詳しい。
 自慢じゃないが、この本は路地に取り組む際の必読書だ。是非、お読みください。

続く



○連続ワークショップ
「地域づくりの視点から都市計画制度に提案する」連続ワークショップ
 2010年6月24日(木)、7月8日(木)、8月4日(水)、8月18日(水) の全4回
 18時〜20時30分(最大延長:21時まで)、参加費たったの100円!


○関連セミナー
都市環境デザインセミナー「路地からのまちづくり」(吉野国夫ほか、2007.2)


○アマゾンリンク
・『季刊まちづくり 26


・住民主体のまちづくり研究ネットワーク編著『住民主体の都市計画―まちづくりへの役立て方』松原永季「総合的村づくりにおける手法の1つとしての都市計画」


祇園南や法善寺横町については
・西村幸夫編著『路地からのまちづくり』のうち上林研二「祇園南―法が認めたコミュニティの防災力」橋爪紳也「法善寺横丁―連担制度で路地空間の再建を果たす」、小泉秀樹「路地を活かしたまちづくりに向けて〜制度活用の最新動向」



・柳沢厚、日置雅晴、野口和雄編著『自治体都市計画の最前線』福島貞道「4-4 京都市の新防火制度と3項道路の活用──歴史的町並みの保全・再生への仕組づくり」、山本英夫「4-5大阪市の連担建築物設計制度の適用──法善寺横丁の再生」狩野裕行「4-6 神戸市近隣住環境計画制度の活用状況──建築基準法の弾力的運用をめざして」