「地域づくりの視点から都市計画制度に提案する」連続ワークショップ〜その2〜
連続ワークショップの2回目は泉さん、松原さん、そして山本さんの報告だった。
議論も盛り上がり、濃密な時間だったのではないかと思う。
次回は8月4日(水)。是非、参加ください。
提案18.市民提案の活発化に向けた都市計画提案制度見直しを行う
泉英明さんは高松の中心市街地で地権者が10人ぐらいの小さな地区での地区計画と、東大阪高井戸で1800人、80haの地区の地区計画に取り組んでいる。これらの経験を踏まえて、より使いやすい制度を提案された。
提案制度の現状と課題
地区計画は1980年にできた。2000年には地区計画の申し出制度ができ、2002年に都市計画の提案制度ができた。現在、5200箇所で策定されており、そのうち1200件はこの5年で作られている。そのうち提案制度を活用したのは73件、ただし開発手法的提案(緩和型)が6割を占め、市民主体の都市計画という訳ではない。
市民提案による地区計画の阻害要因としては(1)提案主体としてのコミュニティの弱体化、(2)地権者特定の困難さ、(3)求められる合意率の高さ、(4)合意形成の質の確保の困難さ、(5)専門知識の不足、(6)行政側の受け入れ体制の不備が上げられる。
成功事例は、ほとんどの場合、意欲のある行政マンや優れた専門家の介在など、僥倖によるもので、普通は行政のなかで放置されているのではないか。地区計画は行政主導で合意を形成していく物との捉え方がなお一般的だという。
改善提案
現行の制度では地域素案を行政に提案するまでの、もっとも大変な部分を住民に任せてしまっている。そこで
- 活動の支援・育成
- 提案へのハードルを下げる。決定ではなく提案にすぎないのに2/3は厳しすぎる。
- 必要な情報・知識の提供、支援が必要
- ハードルを下げる代わりに、素案を行政案にするプロセスを充実する
すなわち、地権者の特定や利害関係者の意向把握など、困難な仕事に行政が関わり、安易な計画提案を防ぎつつ、心ある少数の有志の思いを実現できるようにする
という提案がなされた。
なお開発手法的提案についても現況説明と改善提案があったが、これは省略する。
議論に触発されて
少数の住民のまっとうな願いをどう生かすか
まず泉さんの「頑張っている住民の願いを活かしたい。活かす仕組みをつくりたい」という熱意は立派だと思う。
たとえば高井戸など混在地区では地権者を探し出すこと自体が困難で、1人1人にアンケートへの協力を要請しても回収率は3、4割が限界というように現実の壁は厚い。お金だってかかる。
行政もまんざらではないようだが、洞ヶ峠を決め込むというか、自ら身銭を切って頑張るほどの意欲はない。
だから、ちゃんと周知の努力をしているかなど、計画策定段階の質や、その後のプロセスが充実しているなら、1割、2割の同意でも提案できるようにすべきと言われた。そうすることで行政の協力義務、行政主導による計画策定へのバトンタッチを狙っているのだと思う。
確かにマスタープランの方向に沿っている提案など、行政としても実現したい提案なら、本来、行政がもっと応援すれば良い。その際にはもっとゆるやかな条件でも、なんら差し支えは無いはずだ。
会場からも神戸市のまちづくり協定など、法とは別の制度をつくって、地区計画の下ごしらえをしている例が参考になるのではないかとの指摘があった。
またそういう下地があったうえでの1割、2割なら良いんじゃないかという意見も出た。
僕もそう思う。
申し出制度、提案制度の意味
これに対して、泉さんは行政と話ができないところが問題だと指摘された。
実際その通りなのだろう。しかし行政が意図的にやる気がない、あるいは明らかに行政と住民が別の方向を向いている場合はどうだろうか。
それでも支援する義務が行政にあるのだろうか。
素人理解だが、16条の3の提案制度は、公聴会等の項目と一緒にされているところからも分かるように、地区計画への意見の提出方法の一つとして条例に定められるものだ。ここではあくまで主体は市町村であり、良い申し出であったら渡りに船と乗ることもあるし、気にくわなければ聞き置くだけでも良いという事だろう。
そして上で議論されたような仕組みは、行政の意向に添っているのだから、おおざっぱに言えば、提案制度をベースに構築できるのではないかと思う。
対して21条の2は都市計画の決定に対する提案と位置づけられている。簡単に言えば、気にくわないなら提案を退けても良いが、その場合にはその理由を説明しなければならない。この場合、常識的に考えればマスタープランに適合しないとか、残りの1/3の人々の不利益が大きいとか、周辺地域への悪影響が著しいなどの合理的な説明が必要なのではないか。
さらに夢想すれば、市の都市計画に真っ向から挑戦する場合、提案をぶつけて却下されたところで、その正当性をめぐって裁判で争うといった使い方ができそうだ。あるいは僕が業者なら、法や自治体行政のすき間をついて緩和を提案し、退けられたら正当性を争うこともできる。
だから、21条は行政との協力・協働ではなく、行政に対抗する場合、行政の意図に逆らう場合に意味があるのではないか。
対抗案の提案は権利か
こういった動きに、どれだけ行政が支援すべきかという問題がある。
当然、行政としてはそんな動きはつぶしたい。支援なんかとんでもないというのが普通だろう。
行政としてはほっておきたい場合はどうか。頑張るならともかく、そんなまとまりのない地区に、わざわざ頑張れ!と言いに行くべきか。多少環境が良くなったって、どちみち固定資産税もたいして入らない。税収増はしれている。
また、会場からは行政支援がゆきすぎれば、市民主体と言えなくならないか、との意見も出ていた。
だが、「地域のことは自ら決める」のは人権だと考えれば、提案のための最低限の能力アップ、エンパワメントのための支援は行政の義務だとも言える。
これは、昔、アメリカで言われたという、行政の都市計画への対抗案つくるアドボカシープランニングに通じる話ではないか。また室田さんが紹介したドイツの「社会都市」が重視する地域のエンパワメントは、まさにこの問題ではないか。
なお、いずれの場合も行政は信頼されていないだろうから、金は出しても口は出さないという支援のあり方が必要だし、信頼される専門家集団の活躍が期待されるところだ。
それんしても、泉さんが指摘するように、提案権が力のある企業に有利で、力のない地区ほど不利、使えないというのは、問題だろう。
また、実際に2/3の同意を得るのは困難だが、制度があることが励みになっているとの意見もあった。
やはり、法律論ではなく、具体的に進める現場の方を応援するのが大事なのかもしれない。
○連続ワークショップ
・「地域づくりの視点から都市計画制度に提案する」連続ワークショップ
2010年6月24日(木)、7月8日(木)、8月4日(水)、8月18日(水) の全4回
18時〜20時30分(最大延長:21時まで)、参加費たったの100円!
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・『季刊まちづくり 26』
・住民主体のまちづくり研究ネットワーク編著『住民主体の都市計画―まちづくりへの役立て方』泉英明「モノづくりのまちを次世代へ継承する〜操業環境を保全し住工共生する、東大阪市高井田地域松原永季「総合的村づくりにおける手法の1つとしての都市計画」
・室田昌子『ドイツの地域再生戦略 コミュニティマネージメント』