真保裕一『デパートへ行こう』

 『連鎖』『震源』『ホワイトアウト』など、テロリストやスパイ、国家官僚、政治家が暗躍するサスペンスが得意な真保裕一の作品。


 帯には「驚愕の一夜」「名作『ホワイトアウト』を超える、緊張感あふれる大展開!」とあるけど、これは嘘だ。どうみても、サスペンス・コメディだと思う。


 というのも、真剣に悪人をやっている登場人物が一人もいない。
 泥棒志願の真穂の弱みを握ってほくそ笑む佐々岡が、タダ一人、最後に逮捕されるのだが、真穂に股ぐらを蹴り上げられて逃げられてしまう間抜けぶりだ。


 発売当時、こんなデパート思いの社長がいたら、経営危機になるわけがない、ファンタジーそのものという批評を見た。
 確かに、この小説に出てくるデパートの人は、その社長に限らず、みんなデパート思いだ。
 そして、デパートを死に場所にしようとした人をはじめ、みんなデパートにひとかたならぬ思い入れを持っている。


 だから、この小説は、デパートが光り輝いていた時代、人々の憧れを体現していた時代へのオマージュでもある。


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デパートへ行こう! (100周年書き下ろし)