藻谷浩介×山崎亮対談

 12日の藻谷さんと山崎さんの対談が無事終わった。
 300人近い参加者も結構満足していただいた様子で、感想を書いて下さった方もとても多かった。


 「経済成長がなければ僕たちは幸せになれないのか?」という山崎さんの問いに対する藻谷さんの答で印象的だったのは、一定の豊かさがあれば、あとは多様性こそ豊かさの源だという主張だった。
 また経済成長はあくまでフローが対象で、ストックが考慮されていないこと、また平均値に過ぎず、日本の、あるいは地域の経済成長が良かったとしても、私の、あなたの経済状態が良いとは限らないということ。これも当然だろう。


 その点は諸手をあげて賛成だ。
 だいたい、人口が減っているときに、強迫観念で無理に成長を追求し、やっぱりできないというので「俺はダメなんだ」と落ち込んでいて、楽しい訳がない。
 藻谷さんが言う国を挙げての鬱病の原因は、こんな所にあるのではないか、と思う。


 ただ気になったのは、多様性を楽しむ気分になるには、やっぱり経済・社会の公正性への信頼が欠かせないのではないかという点だ。
 テーマ設定と限られた時間という制約のなかで、そうした議論はあまりなされなかったが、やや個人の問題に絞られている嫌いがあった。


 今、「ある程度の豊かさ」を失いつつある層が増えているのも事実だ。その一つの原因は、既得権層を守りつつ、新規参入者には規制緩和、自己責任を求めてきたこの10年ほどの日本社会の構造改革にあると思う。


 ワークシェアを目指すのではなく、リストラを目指してきたこと。
 そういう大きなあり方も変えていかないといけない。そのためには藻谷さんが言う、消費による、あるいは生前贈与などによる富裕高齢層からの若者への所得移転も真剣に考えるべき事だろう。


 ところで藻谷さんは、消費が萎縮した現状について「日本は老人性鬱病だ」「貯金を趣味にしてどうする」と話されていた。
 この話を聞いて、先日紹介した香山リカさんの『〈不安な時代〉の精神病理』を思い出した。


 香山さんが震災前の日本を「国家的鬱病」だとしていたことは紹介した。
 また、香山さんはデフレが人々に与えた影響の例として、「使わずに貯め込む若者たち」を上げている。
 大学の卒論のゼミで「卒業旅行で外国に行かないの?」と聞くと、数パーセントの学生しか計画していないと言う。一方、春休みもバイトという学生が増えていて、「どうしてそんなに働きたいのか?」と聞くと、「だって貯金しておきたいじゃないですか」というのだそうだ。


 香山さんは「かれらは自分に自信がなく、消費を嫌い、貯金にしか興味がない」「他人がどう思っているか、見せびらかしてどう思われるか」が気になる余り、唯一誰もが欲しいと思い、持っていれば「いいね」と言ってくれるもの、それは「預貯金」だ」と指摘されている。


 嫌消費世代とか、「車買うなんてバカじゃない」という女の子がいると聞いたときは、健全な話だと思ったのだが、こうなると理解できない。預貯金を見せびらかして、どうする。預貯金が大切だと、減ると不幸な気分になるから、永遠に溜めていかないといけなくなる。


 また香山さんは『デフレの正体』を紹介しつつ、「高齢者は優遇されているのか、差別されているのか」と問うている。


 藻谷さんがデフレの正体を人口の波としていることを紹介し、その対策として「高齢富裕層から若者への所得移転」を唱えていることを紹介した後、この本では高齢者の生活、福祉、医療をきちんと確保するための方策も提示していることを断った上で、「高齢者の増加が結果的に経済を傾かせている」という事実を、当の高齢者たちはどう受け止めているのかを問うている。


 簡単に言えば、高齢者を責めても彼らが機嫌良く消費に向かうことはなく、心理的ダメージを受けている高齢者たちが「私は社会から見捨てられていない」と自己の尊厳を失わずにすむような十分な心配りが必要だとされている。

 それはその通りなのだろうが、その具体策は、もう一つはっきりしなかった。


 ちなみに同じ日に首都大学の星旦二先生にお聞きしたのだが、世界ではヘルスプロモーションという考え方が主流なんだそうだ。


 健康(長寿)は医療で増進されるものではなく、水や緑といった自然環境や、仕事があるといった社会環境全体の改善に取り組まなければならないという考え方だという。
 世界標準からすればやたら長い入院期間、異様に多い寝たきり老人など、日本の医療偏重は可笑しいとのお話だった。

 ましてやストレスをためながら健康食品にお金をつぎ込むのはどこか変だ。

 昔、バイトで稼いでは、そのお金で仕事でたまった肩凝りを治しにいっていた人がいた。仕事が楽しければそれでも良いのだが、詰まらなかったら何をしているのか、分からない。それでも、その人が稼いだバイト代とお医者さんに払ったお金は、GNPにカウントされ、経済成長に寄与する。経済成長と幸福は直接には関係しないってことだ。


(おわり)