『季刊まちづくり30号』(2)



 昨日に引き続き季刊まちづくり30号の特集の紹介を続けよう。

狛江市のまちづくり条例〜黒崎晋司さん


 僕にとっての注目は狛江市の「まちづくり条例における開発調整システム」(黒崎晋司さん)だ。


 これは事前協議の申請から協定の締結までの間に、別途、地元、事業者、行政、学識委員による調整会を設け、そこで調整委員が論点を整理しながら事業者、住民と解決策を一緒に模索するというものだ。


 開催は住民、事業者のいずれでも要請でき、その手続きが完了しなければ、条例による開発手続きも完了しないという意味で、一定の拘束力がある。
 また、調整会は冷静に議論する場として運営され、いままでも事業者から要請された例もあるし、事業者がオーナーや設計者と相談しながら真摯に対応し、質の高い計画内容になった例もあるという。


 僕は自宅のコーポラティブ住宅の建設の際に、周辺の方々から激しい反対を受けたことがある。その際、同様の機能を期待して京都市の友人に相談したのだが、調整・調停を建てる側から要請するなんて実質的には想定していないし、やっても無駄ですと逃げられてしまった。
 それと比べたら、大進歩だと思う。


 なお、調整会実施中は確認申請は出せないが、「調整会の裁定には強制力がなく、不調に終わることもあり得る」(松本昭)とのことだ。

真鶴町まちづくり条例及び景観条例〜卜部直也さん

 真鶴町の卜部さんは、美の条例のその後を報告しておられる。
 景観計画と一体化され、法的根拠を強化されていることは、季刊まちづくり12号、17号、18号や『自治体都市計画の最前線』などで報告されていたが、今回の注目点はハウスメーカーや住民との協働、そして世界デザインサミットなどで、美の条例が真鶴のアイデンティティとして内実をともないつつあることだ。

曇野市のチャレンジ〜柳沢厚さん

 また安曇野についても『自治体都市計画の最前線』で報告されていたが、2010年9月に条例が成立し、土地利用基本計画も2011年3月議会での議決に向けてパブリックコメントに入ったそうだ。


 興味深いのは、条例の前に、線引き制度の大胆な弾力的な運用をめざし、長野県と協議したということ。これがうまく行っていれば、他の自治体でも取り組みやすい手法の先行例となったのだが、残念なことに協議は不調に終わり条例に挑戦することになったということだ。


 執筆者の柳沢さんは、地域の実態に合わせた運用が法の趣旨に合わないと言うなら、法を実態に合わせて改正することが地域主権のもとでの土地利用制度の向かうべき方向だと書かれている。

練馬区まちづくり条例〜室地隆彦

 また練馬区のまちづくり条例と福祉のまちづくり推進条例が取り上げられている。
 前者については『住民主体の都市計画』で報告しているが、その後、運用が進み、2011年には一部改正されるそうだ。
 注目の都市計画への提案制度では、地区計画等の住民原案の申し出が、都営住宅建て替えに関わり東京都からあったという。それだけか、という気もするけど、都が地区計画を区に申し出るということは都と区の役割が明確になり、大きな成果だ。今後の都営住宅建て替えのモデルとなりそうだという。


 地区まちづくりもタイプごとに事例が出てきて、今後の展開への礎が築かれてきた。
 弁護士と建築士、都市計画の専門家をセットで派遣する「専門家派遣」も2件あったが、反対で盛り上がっている地区から呼ばれることも難しく、また呼ばれたときに高さの問題など本質的な問題に踏み込めないなど、課題も多いと言う。


 ちょっと長くなったので、各地の条例の紹介は明日も続けることにしよう。


続く


○季刊まちづくり30号予告
http://www.gakugei-pub.jp/zassi/zigou/30yokoku.htm



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柳沢厚、野口和雄、日置雅晴『自治体都市計画の最前線