林まゆみ「生物多様性とまちづくり」セミナー

生物多様性条約第10回締約国会議開幕

 先日、生物多様性条約第10回締約国会議が名古屋で開幕した。地球益国益をめぐりシビアな交渉が始まった。


 国内で開かれる大型の国際会議と言うこともあり、これまで各界で盛んな啓発活動が行われた。
 僕たちも今年の7月に『生物多様性をめざすまちづくり』を出版し、また10月15日には都市環境デザイン会議関西ブロック主催で著者の林さんのセミナーを開催した。


 その記録はいずれフルバージョンが公開されるので、今日は簡単に感想を書いておこう。

自生種にこだわるニュージーランド


 『生物多様性をめざすまちづくり』の副題は「ニュージーランドの環境緑化」だ。内容は副題の通り、ニュージーランドでの様々な取り組みが紹介されている。
 セミナーで最初に紹介された40年をかけた河川の再生が凄い。現在、クライストチャーチでは360キロメートル以上のオープンな水路と40箇所以上もの湿地があるそうだが、再生にあたっては、なんと「生態系、景観、レクリエーション、歴史遺産、文化などの価値が優先、最後に排水が位置付けられている」のだという。


 もうひとつ、強調されたのは自生種による緑化だ。
 それも自然環境を保全するなかで自生種を守ろう、再生しようという話にとどまらず、ジェレミー・ヘッドの庭などは、いかにも「デザインしています」と言う感じなのに自生種にこだわっている。またメーガン・ライトの庭は、イギリスの風景式庭園のように、いかにも自然風を装いながら、とても手が込んでいる。


 ここまでして自生種にこだわる意味があるのだろうか、所詮、人工のものづくりではないか、と思ってしまうが、林さんは意外なメリットを強調された。生物多様性への寄与はもちろんだが、日本で自生種にこだわれば、地場の産業を育成できるというのだ。


 たとえば公共事業では自生種以外は認めないとすれば、地場のものしか使えなくなる。今は自生種の苗など、ほとんど流通していないが、地場のものしか使えないとなれば、産業が育ってくる。だから地域活性化にとても役立つという。

都市デザインは生物多様性に貢献できるのか?

 2次会に参加したのは林さんと鳴海先生、そして朝来市役所の足立さんの四名。普段なら会員を中心に十数名になるのだが、今回はセミナーへの会員の参加も極端に少なかった。
 だから、都市環境デザイン会議の会員は緑を扱っている人も多いのに、生物多様性には関心がないんだろうか?と話題になった。


 生物多様性熱帯雨林などが焦点になることが多い。
 先日の第4回季刊まちづくり26号読書会でも、広島大学で、建築環境や都市環境を専攻されている田中貴宏さんは、「生物多様性の観点から見れば、都市はまわりの生態系に迷惑をかけなければ良い」と断言されていた。


 そして都市の役割は「1)外来生物が入ってこないようにする、2)汚染物質を排出しない、3)都市内の絶滅危惧種保全する」といったことに限られるとされていた。


 この三つの条件をクリアすることは簡単ではないと思うが、地球規模で考えると、人工化されてしまった都市で、緑化をしたところで大きな効果は得られそうにない。


 まして、都市環境デザインや建築は、コンクリートや芝生を使って多様性をぶっ壊している方である。今さら小さな罪滅ぼしをしたってポーズにしかならないとデザイナーの人たちは達観しているのかもしれない。


 これについて林さんは、ビジネスチャンスであることを理解していないからだ、と言われていた。
 自生種にこだわれば、新たな方法と経験が必要になる。それは面倒臭いことかもしれないが、専門家としての力量が発揮できる仕事になるはずだ。そこのところが分かっていないということだろうか。


 鳴海先生は、自生種の日本的なありようをもっと考えるべきだと言われていた。
 ヨーロッパのような地続きの国では、固有種は残りにくい。同じ島国でもイギリスは極めて固有種が少ないので有名だ。
 多様性に価値があるとすれば、日本はかなり有利だといえる。


 だが、固有種は有史以来のものだと限定してしまうと、日本の文化や生活と切れたものになってしまう。たとえば彼岸花遣唐使が趣旨を持ち込んでしまったと言われているが、いまはもう、文化に溶け込んでいる花だ。
 これらを固有種ではないから価値がないと言えるだろうか。


 これに対して、林さんは、もっとおおらかに自生種を捉えようと提唱されているそうだ。
 侵略的で他の種を圧倒してしまうような外来種は論外だが、ある程度の期間、平和共存しているような外来種は、認めようじゃないかという訳だ。


 ともあれ気候変動や生物多様性に都市環境デザイナーがどう向き合うのかは、大切な問題だと思う。公園でも、美しさや機能性だけではなく、これらに対する寄与が意識されるようになるだろう。生物学も学び、また自生種の経験も豊富なデザイナーこそ、次世代のデザイナーのあり方かもしれない。


 そのような議論をセミナーでもっとしたかった。


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林まゆみ『生物多様性をめざすまちづくり―ニュージーランドの環境緑化