過疎地域の戦略

 鳥取大学自治体と連携し、全学的に取り組んだ「鳥取大学持続的過疎社会形成研究プロジェクト」の成果をまとめた本。
 鳥取県知事だった片山善博さんが、「過疎地域で先駆的な取り組みをしている鳥取県の現場でのさまざまな実践を紹介しつつ、今後の可能性について考究」している本だと推薦してくださった。


 大学をあげてというだけあって、文系、理系、工学系、医学系と幅広い人たちが、様々な角度から研究・実践の成果を報告している。
 そなかでおやっと思った物の一つは「生活排水処理事業」の今後を取り上げた細井由彦さんの報告。田舎では個別処理が良いに決まっていると思っていたが、すでに集合処理が整備されているところでは、そうでもないらしい。というのは更新にあたっても管路や建屋などまだ利用できる施設があるからだそうだ。
 なにがなんでも集合処理から個別処理へという選択が良い訳ではなく、人口減少を睨みながら、最適の組合せを選ぶべきだという。すでに投資してしまったものは、うまく使わなければ損だということだ。分かりやすい。
 もちろん、その際、人口減少を過小に見積もると、またまた過大投資をすることになり、しかも簡単には撤退できなくなる。


 だからよほど慎重に考えなければならないのだが、自治体の総合計画を検証した小野達也さんの報告によると、過大な人口予測がつい最近まで多数派だったし、最近は人口予測を避けて通るような傾向があるそうだ。下手に現実を語ると「頑張りが足りない」と議会や市民に責められるのだろうか? 確かに衰退を認めるのは勇気がいる。かく言う僕も、「出版業界も同じ」ということは、頭では分かっても体がついていかない。今度こそ、なんて馬券を買うみたいなことをくり返してしまう。成長の夢って、やっぱり甘美だ。


 だからだろうか、どの自治体も子育て支援や雇用確保などの人口増加政策を掲げている。
 だが、どれだけの人口増をもたらすのか、その論理と目標値の十分な記述は皆無だという。子育て支援や雇用確保など、良い政策だと思うし、人口増加につながらなくてもやるべきだと思うが、だからといって甘い見通しをもって良い訳がない。
 また小野さんは企業誘致や中心市街地活性化など間接的な人口増加政策について、「人口減少自治体における開発・再開発政策はマイナスサム・ゲームの様相を呈しつつある」と厳しく指摘している。
 「非現実的な目標は計画自体の形骸化かを招き、かえって阻害要因になる」ということだ。

 とはいえ、中心市街地活性化について言えば、その名称からは活性化を目指しているように見えるが、実のところ、せいぜい現状維持、あるいは急激な低下を食い止めるというのが現実的な目標になっていると瀬田さんが『広域計画と地域の持続可能性』のなかで書いていた。分かっているところは分かっているのだろう。
 しかし「中心市街地の消滅を遅延させる政策」では意気が上がらないのも事実。「量」にかわる「質」で語れれば良いのだが・・・。中心市街地魅力化ってのはどうだろう。小規模になっても人間的で、ユニークな魅力があって、昔と比べれば人出は少なくても、その空間には人々の雑踏がある。そんなイメージじゃだめなんだろうか。


 だいぶ話がずれてしまったが、いろいろな試みが載っている本なので、一度、目次でも見て、気に入ったら読んで欲しい。

(おわり)

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過疎地域の戦略: 新たな地域社会づくりの仕組みと技術

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