リア・ロドリゲス 『POROROCA』&三文オペラ@びわ湖ホール

 昨日、今日と、珍しいものを見てしまった。
 昨日はアルティに来ていたリア・ロドリゲスの『POROROCA』。ブラジルのリオのスラム、マレ・ファベーラに本部兼ワークショップスタジオを構え、人々と関わりながら創作している集団だという。
 解説によれば「猥雑な日常からそのまま飛び出してきたようなダンサーが個々のポテンシャルを爆発。豊穣な身体性を解き放ちながら集合と離散をくり返して、より大きな塊へと変わっていく」のだそうだ。「『POROROCA』とは、大潮により海水がアマゾン川に逆流する現象をさす言葉。その奔流のイメージには、ブラジルの社会状況が幾重にも織りこまれ」ているという。
 見た感想はというと、まず音楽がないことに驚く。途中から、時たま、ダンサーが上げる熱帯雨林の囁きのようかすかな声が加わり、最後は、みんながお猿や犬になって奇声を張り上げる。なにしろ京都で屈指のホールだから、音が響くこと。
 ダンスはというと、クラシックバレエのように、くるくる回ったり、飛び上がったり、どうだ絶対マネできないぞ、って感じがない。地を転げ回ったり、四つばいで歩いたり、お馬さんごっこをしたり、飛びついたり抱きついたり、ぴたっと止まったり・・。何なんだ、これは!?
 面白かったのは睨めっこのような顔のダンス。最後の見せ場では全員がヘンな顔をして、徐々に徐々にその顔を変化させていく。そして客席の間を駆け上がってきたときには、ほんの2mほど先で身体が躍動していた。


 一方の三文オペラブレヒトの戯曲にクルト・ワイルが音楽を付した音楽劇にびわ湖ホールアンサンブルが挑戦したもの。三文オペラは名前だけは良く聞くのだが、どんなものか全く知らなかった。
 解説によると1928年にブレヒトと作曲家ワイルが商業劇場の依頼を受けてつくった作品で、当時、大ヒットしたという。底本は1728年にロンドンで大ヒットした乞食オペラ。Wikipediaによると、このオペラでは登場人物は悪党ばかりで、盗人に乞食の親玉、売春婦が騒ぎ歌い踊る。そして、とうとう主人公が絞首刑となったあと、なぜか生き返ってハッピーエンドとなるのだそうだ。

 三文オペラの粗筋もほとんどこれと変わらない。
 貧民街ソーホーの顔役であるメッキー・メッサーがロンドンの乞食王ピーチャムの娘、ポリーを見初め、彼女との結婚式を挙げる。ピーチャムと彼の妻は娘を取られたことに怒り、ロンドンの警視総監ブラウンにメッキーの悪事の証拠をつきつけ、逮捕させる。ブラウンは実はメッキーとウラでつるんでいるのだが、ピーチャムが女王の戴冠式を妨害すると脅し、屈服させたのだ。
 メッキーは逃げるが、愛人の娼婦ジェニーの密告であえなく捕らえられてしまう。しかし愛人の一人ブラウンの娘ルーシーの手引きで脱走。が、別の娼婦と寝ているところを密告され、またしてもお縄に。ほんとに女好き。我慢できない困った奴という合唱が盛大に歌われる。
 しかし、とうとう絞首刑かというところで、「こんな結末じゃつまらないだろう」「普通はあり得ない結末をお見せしましょう」という口上つきで女王の使者が現れ、赦免されてハッピーエンドになる。

 解説には叙事的演劇、異化効果なんてブレヒトの難しい概念が連ねられているが、どこが異化なんだか、さっぱり分からない。古めかしいセリフに最初はついて行けなかったが、ひょっとして、これが異化なのか?。
 でもまあ、大砲ソングはノリが良かったし、フィナーレで「マック・ザ・ナイフ(メッキー・メッサー)の殺し歌」に観客がみんな手拍子を打つのは、考えてみれば妙だ。これが異化なのだろうか?。
 ちなみに歌詞は次の通り。ワイフは「なんだか鶴屋南北に似ているなあ・・」との感想だった。

「鮫にゃ歯がある 顔中いっぱいでっかい歯がある マック・ヒースにゃドスがある こっそりどこかに隠してら ある晴れた日曜に 土左右衛門が転がってた 影を曲がる人影が その名はドスのメッキーだ シュムル・マイヤーはどこ消えた 他の金持ちはどこ消えた マック・ヒースの懐にゃ金ががっぽり 足がつくよな馬鹿はしねえ ジェニー・タウラーが見つかった 胸をドスで刺されてた 波止場をふらつくマック・ヒース・・・」(http://www010.upp.so-net.ne.jp/iraija21/operacinema/sanmon.html


(おわり)