三浦しをん『舟を編む』、大崎梢『プリティが多すぎる』

 どちらも編集者が主人公の物語。
 三浦しをん舟を編む』は売れているとは聞いていたが、アマゾンを見に行くと堂々1位だった。4月10日に本屋大賞をとった影響もあるのだろうが、凄い売れ行きだ。ちなみにジュンク堂系列の売れ行きをみてみると、この1ヶ月で1400冊、内、10日以降で1000冊も売れている。

 それはともかく、本屋大賞やキノベス(紀伊国屋の書店員さんが選ぶ)ベスト1位に輝いたのは良く分かる。
 いま、本は粗製濫造されている。よく言われるように96年をピークに売上げは3割減ったのに、発行点数は3割増え、一点あたりの売上げは半分になってしまった。だから、かけられる時間もお金も減り続けている。最悪なのは、点数増に追われて、編集者の気持ちがぞんざいになっていることだ。
 そんな時だからこそ、一字一句に命をかけ、13年もの歳月もかけて作られる辞書「大渡海」が輝いて見える。
 しかし納得がいかないのは、地味で真面目だけが取り柄の辞書編集者・馬締さんに、香具矢さんのような素敵な女性が寄り添っていること。同僚の自称イケメン、西岡さんじゃないけど、羨ましい。妬ましい。社からないがしろにされ、美女にも無視されて、古びた暗い編集室に籠もる鬼気迫る編集者であったほうがリアリティがありそうだが、それでは辛すぎて、読者がついて行かないのだろうな。

 一方の『プリティが多すぎる』は大崎梢さんの作品。『配達あかずきん』などの流れで連れ合いが買ってきた。
 主人公は大学を出たばかりの大手出版社の編集者、新見佳孝。突然『ピピン』という女の子雑誌に配属され、ふてくされたり、どじったりしながら、雑誌とは何か、本とは何かに目覚めていくというストーリーだ。
 こちらは1月に発売されて3ヶ月でジュンク堂系列では150冊ほど。当社の少しよく売れる本と変わらないから、文藝春秋が出した一般書としては不振なのかもしれない。

 ただ、僕はこれはこれで結構面白かった。
 三浦しをんのほうが確かに巧いとは思うが大崎梢も若々しくて良い。
 それに、中型の辞書という昔堅気の僕らなら一目置く立派な本ではなく、「プリティ、ポップ、ピュア、ピピン。女の子はPが好き」という気恥ずかしくなるキャッチフレーズの雑誌で、「ちまちまこちゃこちゃしてチープでみーな同じような顔をして、ハートやリボンで飾り立て、おかしくもないのに笑ってはしゃいで。ぜんっぜん、ついていけない。ついていきたいとも思えない」と思いながら、読者と直に向かい合っていく新見のほうが、僕にはいっそう輝いて見えた。

(おわり)


舟を編む


プリティが多すぎる