山内道雄『離島発 生き残るための10の戦略』

 海士町の町長さん、山内道雄さんが2007年に書かれた本。
 帯には「財政破綻前夜、生き残りに向けて立ち上がった離島の町。難問解決のヒントがここにある」と書かれている。
 実際、島丸ごとブランド化など果敢な取り組みが書かれているが、一番気になったのは職員の給与カットだ。
 なんと一般職員で3〜4割も給料をカットしたのだという。町長自身や管理職はもっと厳しく、全体で45%も人件費を削ったそうだ。
 そんなことをして、本当に大丈夫なのだろうか。大学受験を控えた子どもを抱えた職員のなかには、どう見ても今の給料では厳しい。「心のなかで頭を下げるしかありません」「給与カットという手法は、経費削減の方法としては最悪」と自覚していると言われても、カットされた職員の生活問題は何も解決しない。

 でも、本に書かれていることを信じるなら、職員の志気が下がることはなかったという。それは下げられるところまで一気に下げて「あとは右肩上がり」の状況をつくったからだという。むしろ5%、10%とチョビチョビ下げていると、「この先どこまで下がっていくのだろうと不安になる。こうした先の見えない状況こそが、志気を下げてしまう」と書かれているけれども、理屈は分かるがムムッというところだ。
 もちろん、適材適所、それも町長自らではなく課長たちの推薦制による年功に拘らない抜擢、自らにはもちろん、管理職に厳しい態度、未来に投資しようという積極性など、ついていこうという気にさせるものがある。また首切りという、もっと最悪の方法を取らなかったことも大きいと思う。
 しかし僕が経営者だったら、とてもこんな荒治療はようやらないし、真似てやったら総スカンだろう。
 人徳がないと、とてもうまくいかないように思う。
 またUIターンの奥さんたちをパートで雇って役所に刺激を与えたり、島の奥さんたちにも活躍の場をつくるなど、力を引き出すのがうまい人だなあと思う。
 ただ、こういう希有なリーダーが力を発揮できるのは、2500人という小規模な自治体だからではないか。海士町は地理的条件が合併に向かず合併しなかったそうだけど、それは表面上の理由で、本当は適度な大きさ、我が町と言える大きさを守りたかったのではないかと感じた。

(おわり)

離島発 生き残るための10の戦略 (生活人新書)