谷口浩司編著『マンション管理評価読本』

 昔、家を探していた時、中古マンションも見に行った。
 驚いたことに、平面図すらちゃんとしたものがないマンションが多かった。立地と築年数と見てくれだけが頼りで、構造すら分からない。これじゃ、よほど目利きでないと安心して買えないと、諦めた。
 昨今、ストックの時代なんて言われて、維持管理の善し悪しが大切なんて言われるけれど、素人にどうやって見抜けと言うのだろうか。
 そんな思いに答えようという真面目な人たちが始めたのが「マンション管理の評価」という仕組みだ。
 不動産流通業者、弁護士、マンション管理士等の豊富な実務体験やデータをもとに、評価の方法を練り上げている。平面図や構造などの基礎資料とともにこういう評価が購入前に手に入れば、安心というものだ。

 残念なことに、まだ実験的な段階で、本拠地の京都でも評価が公開されているマンションは多くはない。
 ただ、希望もある。本書の著者のひとりが体験されたことだが、管理状態をきちんと調べずに仲介・販売したために、消費者から訴えられてしまったそうだ。不動産屋さんには気の毒だが、こういう事例が増えてくれば、対応せざるをえなくなるのではないか。
 言い古されたことだが、人生の最大の買い物をするときに、品物の善し悪しを調べずにエイヤッと買ってしまうなんてことは、あって良いわけがない。そんな事が世間の常識になったのは、土地が絡めば必ず値上がりするという土地神話があったためだ。神話はさすがに崩壊したが、その惰性がまだ続いている。

 不動産屋さんには、ユーザーに訴えられる前に、先見の明をもって取り組んで欲しいものだ。

 なお、個人情報の保護が情報公開への消極的な姿勢を助長しているという指摘は「なるほど」と思った。購入希望者に管理規約や総会議事録すら見せたがらない管理組合が多いというが、個人情報保護の目的をはき違えているとしか言いようがない。マンション管理組合は買い手に対する社会的責任もあるということを考えてほしいと思う。

(おわり)

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