『季刊まちづくり34号』

 東京では違うのかもしれないが、関西では、復興が進んでいるのかどうかすら、さっぱり分からない。
 その点、自画自賛になるが、『季刊まちづくり34号』は、震災1年目の現地の状況を「都市計画・まちづくり」という視点から多面的に紹介している。ああ、やっぱりという面と、それでも次の時代に向かって頑張っている人たちがいることが分かる。

 巻頭言は佐藤滋氏の「復興のビジョンと基盤復興計画から見えてきた課題」。控えめに書かれているが、当初、変わらなければいけないとされた従来型の計画や動向があらわになってきていることへの憤りが秘められているように感じた。
 それでも、くじけずに、しつこく、「地域主権」「分散型ネットワーク」「環境と共生する構築環境」「地域マネジメント」「連帯経済」をたかだかと掲げ、「国や県が決めたことだからと思考停止に陥るな!」と叱咤激励される。

 そして自らも先頭に立たれて、もっとも発言が困難な原発被災地の復興に具体的な提言をされる姿勢には、脱帽する。

 ところで、どうして従来型の計画=長期間をかけた大規模土木事業を基幹とする計画が前面に躍り出てきているのか。
 これを考える上で、平野勝也氏の「防災事業とまちづくりの相克」、加藤孝明氏の「これからの津波減災まちづくりの論点」、そして三船康道氏の「宮城県南部地域の復興計画 土地利用からの検証」が興味深かった。
 きちんとした話は『季刊まちづくり34号』をお読み頂くとして、ここからは僕の感想を述べたい。


 震災後、中央防災会議は津波を二つに分類し、それぞれの対応方法を変えることに決めた。
 まず数十年から百数十年に起こるL1地震に対しては防潮堤で止め、生命財産を守る。
 そして五百年〜千年に一度起こりうるL2地震に対しては防潮堤での対応を諦め、避難路などの充実により生命を守る。防災ではなく減災というものだ。
 この通り避難を重視してやっていれば良かったのだと思う。
 しかし、現実には「次に同じような津波がきても死者がゼロ」という善意が減災という考え方を許さなかったのだろうか。
 L2が来ても大丈夫なようにL1用の防潮堤と二線堤の間は居住禁止にし、公園にするという話すら出てきている。

 それならいっそL1防潮堤をやめて、二線堤のラインにL2津波にも耐える物をつくったらどうかと思ってしまうが、どうだろうか。

 ただ、国交省や地元自治体が、本気で二線堤をやろうとしているかというと、そうではないらしい。国交省は500mを超える津波防護施設には補助しないと断言しているそうだし、三舩氏によると市町村の復興計画では隣接市町村のそれと繋がっていないそうだ。
 そんな中途半端な物、世の中の関心がさめたらお蔵入りになるのではないか、と思う。

 一方、防潮堤や高台移転・嵩上げの予算の一部を生活・産業復興にふりむけて、ともかく元気になってから大きな津波の事は考えようという街はないらしい。
 だいいち、防潮堤や高台移転は国が100%面倒をみてくれるが、それを節約したからといって、産業や生活復興にお金を回してくれるわけではない。
 また、平野氏によれば、みんながL1の堤防を作っている時に、ウチはちょっと低くしますとした結果、津波に襲われて被害が出ると裁判で「行政の怠慢」ということになりかねないという。そんなことを決断するのは自治体には荷が重い。何か起こると「なんでも行政の責任」とするこの国の風土が自律的な選択を妨げているように思えてならない。

 その結果、長期間をかけての大規模土木工事が花盛りとなる。
 お金もかかるし、費やされる時間が、被災者の逃散を促してしまうことになりかねない。果たしてまちづくりが希望をつなぎ止められるのか、正念場が続く。

(おわり)

○季刊まちづくり34号予約ページ
http://www.gakugei-pub.jp/mokuroku/book/ISBN978-4-7615-1305-4.htm

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◆目次

★★特集/復興まちづくりへのフレームワーク
浪江町東日本大震災で被災後、福島第一原子力発電所事故の影響を受けて、仮役
場が同県内の二本松市に設置され、多くの住民が移動・避難し、復旧・復興は深刻な
状況に直面している。それだけに復興に至るプロセスは予め十分に検討されなければ
ならない。

また、五年間で19兆円の復興予算成立によって、長大な防潮堤の建設や高台移転が
現実味を帯びているが、まちづくりからの検討が欠かせない。

さらに、重要な社会資本である地域公共交通についての試論、前回『復興計画は何
をどのように実現するのか』の補論など、現地状況の変化に即した提案を行う。

★巻頭論文 復興のビジョンと基盤復興計画から見えてきた課題(仮) 佐藤滋

□パート1 原発
原子力発電所事故災害からの地域再生試論
  早稲田大学都市・地域研究所+佐藤滋研究室

□パート2 インフラ
・防災事業とまちづくりの相克 平野勝也
・海岸堤防のデザインが問うもの 佐々木葉
・復興まちづくりにおける地域公共交通 中村文彦

□パート3 復興アーキタイプの提案
    阿部俊彦+佐藤研究室

□パート4 復興計画の主な論点と課題
陸前高田市震災復興計画に関する個人的覚書 中井検裕
・復興計画を読む 饗庭伸+澤田雅浩

□パート5 復興支援
石巻復興プロセスのデザイン 真野洋介
・漁港・漁村復興計画の課題 富田宏
・対立を対話に変えつつ「ふるさと再生計画」を創造する 延藤安弘

東日本大震災の復興まちづくり施策の枠組みとポイント 佐々木晶二

★次の広域・巨大災害に備えて
・これからの津波減災まちづくりの論点は 加藤孝明
・被災地外(静岡県)での津波対策の動向 池田浩敬
・地域と学校の連携による津波避難訓練 岡本清峰
・防災人材育成プロジェクトの実践と展開 浅野聡

★<東北地方太平洋沖地震の被災地を訪ねて4>
宮城県南部地域の復興計画 土地利用からの検証 三舩康道

★<各地からの報告>
共楽館修復への運動 市毛環

★<地域レポート>
茅ヶ崎市・環境まちづくりを主導する市民達 八甫谷邦明