滝川薫編集、村上敦、池田憲昭、田代かおる、近江まどか著『100%再生可能〜欧州のエネルギー自立地域』

 この本は、福島原発事故の後、お付き合いのあった欧州在住の日本人ジャーナリストからスタッフの宮本にお話があり実現した。「「フクシマ」という重く深刻な運命的打撃を受け、それを背負って生きていかなければならない祖国に、新しい夢とビジョンを与えたいという思い」で書かれたという。
 だから隅々に、大事故の前に立ちすくむ祖国への、「しっかりして」「やれば、できる」という熱い思いがこもっている。


 なにより勇気づけられるのは、エネルギーの自立という大きな課題が、実は地域の再生というテーマと重なっていることを教えてくれることだ。
 紹介されている事業は、小さな自治体や個人が、小さな元手ではじめ、地域に大きな利益をもたらしているものが多い。
 地域経済という面から見れば、これは地域外、さらには国外に流出していたお金が地域に留まり循環するということだ。
 地域で取り組む場合、それが大きな目的になっている。だから、いかに地域内でお金を回すかに腐心されている。
 なかには、まず確実な事業計画を立てたうえで、お金のない住民も参加できるように、銀行が再生エネルギーへの投資費用を貸し付けるといった手段までとって、利益が誰かに偏らないようにしている例もある。
 また、電気料金が安くできる場合も、値段を下げると省エネが阻害される。だから、値段を据え置いたまま、その差益は一律に還付するという方法もあるという。省エネに励んだ人はより少ない電気代ですみ、しかも一律の還付金を貰えるので、努力が二重に報われるというわけだ。

 もちろんドイツや欧州各国ですこしうまく行きだしたからといって、日本でうまくいくとは限らない。自然エネルギーのありようは、地域ごとに異なるから、それぞれの地域にあった方法を自ら見出していかなければいけない。
 たとえばドイツには乏しい水力は、日本にはたっぷりある。自然への影響がすくない小規模の水力発電ができれば、未来は明るい。特に余剰電力で揚水し、ピーク時に発電できれば蓄電効果も期待できる。
 また地域全体が最初から賛成するとは限らない。だからといってお金をばらまいて黙らせるなんてことは止めなければいけない。
 合意形成のあり方もドイツ等と日本では異なるが、彼らも大変な苦労をしながら丁寧な合意プロセスを経ていること、その手法を進化させていること、また騒音や景観、自然保護など緻密に検討し、相応しいところにしか立地させないように規制していることは参考になる。

 経済界からは、原発問題は「再生エネルギーが立ち上がるまで天然ガスで凌いでいけば良いさ」という甘い話ではない、という指摘がある。
 その通りだ。CO2をいかに減らすかという問題もあれば、石油や天然ガス、さらにはウランなどの資源の枯渇という問題も近い将来やってくる。
 だから、ドイツ等でも再生エネルギーですべてを代替しようというのではなく、前提としてエネルギー消費を半分に減らすことを目標としている。特に暖房のためのエネルギーにムダが多いので新旧建物の断熱化を急ピッチで進めているそうだ。

 だが、この本でも書かれているように、問題解決には長い時間が必要だ。欧州でも1970年頃からの環境運動、スリーマイルやチェルノブイリ事故を経てようやく再生エネルギーへの取り組みが本格化し、フクシマによって脱原発の方向がより強まっている。それでもドイツでも、再生エネルギーの割合は、全エネルギー消費の8%(2009年)にすぎない。注1


 本来なら、数十年後に向けたエネルギー自立のビジョンとロードマップをつくり、議論し合意することが重要だと思う。いつまでも原発に頼るのか、いずれ抜け出すのか、その方向さえ定まれば、民間や自治体が思い切った投資をできるようになり、技術者の力も結集され、多くの課題が解けていくのではないか。

 しかし残念ながら政治にそのようなリーダーシップを期待することはできそうにない。下手に期待すると、「なにもかも一気に解決してあげるから白紙委任せよ」といった乱暴な人が人気を集めてしまう。
 だから、僕たちは焦ってはいけないのだと思う。
 そこまで大きな話をしなくても、まずは今年の夏に始動する固定価格買取制度をきちんと動かせるかが問題だ。
 子どもたちの被爆をとっても心配している友人に、「地域で再生エネルギーを」という話をしても、関心をもってくれなかった。そんな先の話は聞いても仕方がないという感じなのだろう。だが、何もしなければ、何も変えられない。今の政府や電力会社のありようを見ていると、市民の声がない限り固定価格買取制度もまっとうに運用されないと思う。まずは一歩踏み出す最高の機会を逃したくない。


 なお、本書によれば欧州でも再生エネルギーのあり方にも大きな議論があるという。
 本書は地域での自立を強く薦めているが、国レベルだけで考えれば、再生エネルギーも大規模な方が効率が良いということは否めないらしい。
 だから北海に巨大な風車パークを並べるとか、砂漠にソーラーパネルをといった巨大プロジェクトがあるという。
 再生エネルギーの拡大という課題を優先すれば、そういうものも大いに結構なのだが、それだけでは、巨大な外部起業に地域がお金を吸い上げられるという構造は変わらない。今のところは仲良く、しかし、したたかに、地域でのエネルギー自立を進めたい。

(おわり)


注1
 この本ではエネルギーを電力、熱源、交通の三つに大きく分けている。
 ここでいう全エネルギー消費はこれらを合わせたもの。
 なお同じ年、ドイツでは原子力は全エネルギー消費の9.6%。
 日本は同じ2009年、再生可能エネルギーが6.3%。原子力が11.5%。前者は水力が大きい。
 ドイツは熱源としての利用が多く、石炭、褐炭が20%あり、原油とガスは60%。全体で15294PJ。
 日本は石炭21%、原油とガスが61.1%。全体で20893PJ。
 人口規模を考えると、今のところ、結構似た感じだという。
 なおドイツは建物の高断熱化など熱源への対策は進んでいるが、交通はほとんど進んでいないらしい。高速道路に速度制限がほとんどなく、高速をだしても安定と静穏を誇る自動車会社が経済の大きな部分を背負っているので、改革は難しいという。


○アマゾンリンク

100%再生可能へ! 欧州のエネルギー自立地域