駒崎弘樹『「社会を変える」を仕事にする』

 この本は良い。元気が出てくる本だ。
 何と言っても、行き当たりばったりなところが良い。また聖人ぶらず若干露悪的に下ネタ大好きな自分をさらけ出すところも良い。

 彼は病児保育という病気になったときに子供を預かる事業を立ち上げている。とういのも、子供が病気をすると保育園が預かってくれず、会社を休まなくてはいけないため、会社を首になったり、正社員になれないといった理不尽な話を聞いたからだ。
 だが、その切っ掛けが軽い。
 社会のために役立ちたい、そのためにはアメリカで見た社会的な事業で貢献するという方法が一番自分にあっている。日本にそういう考えがないというなら俺がやってやる・・・で、何をするの?と彼女に聞かれて絶句し、ブックオフに駆け込み、『現代用語の基礎知識』を立ち読みしたのだという。
 だがピンとくるものがない。そこでふと、ベビーシッターをしている母親の話を思いだし、また自身が子供のころは近所の松永さんが預かってくれたから親が働き続けられたのだと気づく。
 「そうか、小さかったころの自分には、そういえば気のいい地域のおばちゃんがいたんだ」でも「松永さんは、もういないんだ」。
 これだと思った。「それは社会問題、という抽象的な言葉ではなく、血の通った手のすぐ届くところにいる気にくわない野郎のようだった」。

 この「血の通ったすぐ手の届くところ」というのは、最近読んでいる本のキーワードのようだ。「ソーシャルデザイン」でも「小商いのすすめ」にも、まずは等身大の問題に取り組もうという姿勢がある。

 ただ、『「社会を変える」を仕事にする』という書名をつけるだけあって、彼は自分の身の回りに留まってはいない。彼のシステムが厚生省にパクられて制度化されたとき、一時は怒っていたものの、その政策が少しでもうまく回るように全国の事業者をサポートする仕組みもつくっている。
 また非施設型の病児保育がいくら素晴らしい取り組みだと言っても、元はと言えば「子供が病気になっても休めない会社、そんな会社を擁護している社会」に問題があるのは明らかだ。皮肉な言い方をすればそんな不正を支えてしまっているってことになりかねない。だからワークライフ・バランスコンサルティング事業も始めているという。

 「僕たち社会起業家は、事業を通じて社会問題を解決するモデルを創り出す。あとは多くの人にそのモデルを真似てもらったり、あるいは行政が法制化したりすることでそのモデルが全国に拡散する」。
 等身大の問題に取り組んでいても、世界への広がりも忘れない。なんか輝いている。

 そのうえ、存在が明るい。
 就職希望の若者から、プロボノ希望の専門家まで、多くの人を引きつけて味方にしている。この明るさが、ソーシャルビジネス成功の鍵なのかもしれない。

 追:
 彼のNPOフローレンスのことは『新版 コミュニティ・ビジネス』でも簡単に紹介している。
 また最初の商店街の空き店舗での事業へチャレンジしたとき一緒に動いたのが木下斉さんで『コミュニティビジネス入門―地域市民の社会的事業』の著者。
 また駒崎さんの事業モデルが厚生省にパクられたと激怒していたとき、ケツの穴の小さな若造ね。その程度のことで何をグダグダグタグタ言っているのよ」と気合いをいれた石川治江さんは『川で実践する福祉・医療・教育』を編集、執筆いただき、ケア・センターやわらぎの記念パーティで随分たくさん使ってくださった。
 そのネットワークの先に、駒崎さんのような人もいたとは・・・。


(おわり)

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「社会を変える」を仕事にする: 社会起業家という生き方 (ちくま文庫)