『何が日本の経済成長を止めたのか?』『小商いのすすめ』

 『何が日本の経済成長を止めたのか?』というNIRAのレポートをちらっと見た。
 それによると、成長が止まったのは、
1)日本が経済的にアメリカなどの先進国に追いつくようになってきた、
2)金融のグローバル化と変動相場制への移行は、輸出指向型成長の持続を困難にした、
3)高齢化の問題
があると指摘しながらも、ここまで停滞しているのは、政策が間違っていたからだと言っている。具体的には
1)90年代の景気後退期にすべての企業とその正規労働者の雇用を守ろうとしてた
2)政府の規制緩和の遅れ
3)日銀はインフレターゲットに及び腰
4)政府の支出の多くは非生産的な公共資本に投下
が政策の謝りなのだそうだ。
 もっともっと市場原理主義に忠実であれば、高度経済成長の再来は無理でも、安定成長ぐらいは取り戻せると言いたいのだろう。最近、日銀がインフレターゲットに大胆に踏み込んだと報道されたが、こういう圧力に負けたということだ。

 それに対して先日紹介した『小商いのすすめ』には「経済成長から縮小均衡の時代へ」という副題もついていて、日本はもう成長に夢を託すのは止めた方がよいと書いている。
 そもそも高度経済成長はなぜ可能だったのか。本書によれば「日本が若かったこと」「死に物狂いになる野生が残っていたこと」、言い換えるなら「貧乏だったからだ」という。もちろんアメリカという巨大な市場があったことも大きいが、作っても作っても飲み込んでくれる市場が国内にあったということだ。
 今はもうそんな市場はない。

 ジョブスという人が亡くなって、その関連記事のなかに、彼は「その製品を使って人々が楽しんでいる様子を思い浮かべて製品開発をしろ」と言ったと書いてあった。なんと素晴らしい発想だという誉めあげ調の記事だったが、逆に言えば、いまは必要とされていない商品を開発しない限り売れないと言うことだし、そんな商品がなくてもそんなに不満もなく暮らしていけたということだ。
 ガンの特効薬のように「あれば絶対良い」と誰もが思うようなものは、もう限られている。

 そこまで市場が成熟しているのに、NIRAのレポートがいうような施策で成長率がガンと上がるのだろうか。それに1)2)4)は裏返せば、グローバリズムについていけない企業や正規雇用は退場させ、ついていける企業に最大限の自由を与え、そういった企業の成長のために公共投資まで動員しようというものだが、そんなことまでして成長しても、戦後最長の平成景気が実感のないままに終わったように、雇用は増えないし、大部分の人の懐もお寒いままだ。

 なぜ、こういう主張が、成長力のある企業サイドの人たちだけではなく、結構幅広い支持をあつめ、日銀の政策を変えるほどの力を持つのか。疑問は尽きない。

(おわり)


NIRA研究報告書『何が日本の経済成長を止めたのか?』2011/1発行
http://www.nira.or.jp/outgoing/report/entry/n110125_507.html
小商いのすすめ 「経済成長」から「縮小均衡」の時代へ