河田惠昭『津波災害〜減災社会を築く』
昨年12月に出た岩波新書。羨ましい限りのグッド・タイミングの本だ。
もっとも勉強になったのは津波の観測が難しいということ。
今回、第一波が去った後、家に戻ってしまった人が多くなくなったという話がある。津波の状況がリアルタイムで把握できたら、こんなことは起こらないはずだ。予測や予知ではなく、実際に起こっている現象の観測なんだから簡単そうなのになぜやらないのかと不思議に思っていたが、実は難しいとのことだ。
ただ、最近観測されたGPS津波計は一基1億円以上するそうだが、沿岸水域にネットワーク上に100基も配置すれば、相当の効果が発揮できるそうだ。
100基なら、100億円だ。何年持つのかによるが、安いもんだと思う。是非、設置してほしい。
びっくりしたのは東京も津波の危険が高いという話。先日紹介した吉村昭さんの『関東大震災』では津波は来なかったとされていたが、河田さんによると、はっきりはしなけれども、来たのだそうだ。
そして、最悪の場合、今回の死者数を上回る3万2000人が犠牲になるという。
特に恐そうなのが地下鉄。一箇所が冠水してしまうと、地下でつながっているので、水が流れ込んでいくという。
ところで河田さんと言えば、三月末にスーパー堤防のような防潮堤を提案されるなど、ハード重視の人というイメージが強かったが、この本を読むとそうでもない。
特に次の指摘は秀逸だと思う。
「たとえば、釜石の湾口防波堤の総工事費は1215億円であるが、現在、人口が4万人であるから、住民一人当たり300万円の税金が投入されたことになる。これだけの防災投資をしたにもかかわらず、人口が減少し、地域の活性化にこの防波堤建設が貢献していない。このような高価な防災施設が、地域づくりに活かされていないところに問題がある」。
「奥尻島の青苗地区もそうである。安全になった素晴らしい漁港、地上げされた居住域。しかし、人口減少が続き、活気が見られない。不幸な災害をきっかけとして、魅力づくりに結び付けようとする関係者の識見や熱意がさらに必要だったのではないだろうか。このようになったのは少ない関係者による検討で、短期間に結論を出さざるを得ず、経費に見合う投資効果が深く議論されていなかったからである(安全だけを優先したまちづくりをしてしまった)。〜中略〜
青苗五区は居住禁止になってしまった。そこは現在、津波慰霊碑と津波館しか建てられていない。これだけの広大な平地は島内にはないのに、利用していない」。
今回、災害が強烈だっただけに、安全重視に行きがちだ。今回の復興が、同じ轍を踏まないことを願う。