復興構想会議の提言」(2)

 提言は減災を掲げ、「被害を完全に封じるのではなく、その最小化を主眼とすること。そのため、ハード対策(防波堤・防潮堤の整備等)、ソフト対策(防災訓練、防災教育等)を重層的に組み合わせること」を主張している。


 だが、地域類型と復興のための施策を読んでいくと「逃げる」ことばかりが強調されているように見える。


 [東日本大震災原発事故]をめぐるインタビューで防災学者の加藤孝明さんにお聞きしたのだが、津波からの防御には、1)防潮堤など災害に立ち向かうハードによる防御、2)高台移転など災害からの退避、3)来襲時に素早く逃げるといった地域社会のソフト、の三つがあるのだそうだ。


 その三つは、どれか一つでも完璧に行えれば、命は守れるはずだが、一つだけに特化した対策は現実にはいびつなものにならざるを得ないという。
 巨大な防潮堤で日本の海岸を覆い尽くす、あるいは無人の海岸、そして常に敵襲に備える戦時のような緊張感の持続。いずれもあり得ない話だ。


 たいして、提言は、「住居は高台へ退避」を強調する。」
 これは「逃げる」というより「予め逃げる」というのが正確だろう。
 そして海岸沿いは嵩上げや避難路、避難ビルの建設などにより防御力を高め、海沿いから退避できない産業のみ立地するように規制するのだという。


 たしかに、あれだけ悲惨な体験をされ、また僕たちもテレビなどでその光景を目の当たりにした今、「非戦闘員は安全な場所に退避」は当然の選択のように思える。


 だが、本当にそうなのだろうか。
 今回の被災地で目指す安全・安心のレベルは、いずれは全国で実現されるべきものだ。
 日本は地震列島であり、津波列島である。
 河田惠昭さんによると、紀伊半島や高知はもちろん、東京や大阪だって津波の脅威はあるという。先日の新聞には、大阪市はもちろん、高槻や枚方まで津波に浸かるという話が出ていた。


 そんな広大な地域から住居を撤退させるなんて、ありうるのか?


 今回、防潮堤が破られたときに被災する可能性が事前に明示されていたところより、まさかここまでは来ないだろうと油断していた地域のほうが死者が多かったとも聞いた。次に来る大災害で、今回と同じ場所がおそわれるとは限らない。


 だから完全な安全はありえないのだが、低地に厳しい土地利用規制をかけ、高台移転を進めると、行政があそこはダメ、ここは安全と言ったのだからと、住民が人任せにならないだろうか。そうなると、万が一、今回よりも大きな津波が来たとき、誰も避難していなかったということにもなりかねない。


 提言でも「逃げる」ことを基本とする防災教育の徹底やハザードマップの整備などに言及はされているが、防災教育という単語が出てくるのは5箇所、実質的には学校教育の再建のなかで触れられているに過ぎない。防災訓練にいたっては単語は2箇所、実質的な内容はゼロだ。


 せめてハード並みの、踏み込んだ提言がソフトについてもあって欲しかった。


(続く)