小林弘人『新世紀メディア論〜新聞・雑誌が死ぬ前に』


 キンドルアイパッドが発売されて、電子書籍が騒がれたのは2010年だが、この本は一足早く2009年にウエブメディアの立場から出された本だ。


 最初に、「出版業界とは取り次ぎ制度依存業界に過ぎない」とくる。ガツンと一発って感じ。
 それは、その通りだ。
 その取り次ぎ制度が、新参者に極めて冷淡なところ、というのもホント。


 だから、インターネットや電子書籍は業界にとっては脅威かもしれないが、今から出版を目指す心のある人なら、大きな期待を寄せているに違いない。


 もちろん紙の本がそう簡単に絶滅するわけはない。しかし、より本質的には紙か電子かの問題ではない。もちろん取り次ぎかネットかでもない。
 本がもっている総合性、一つの宇宙をつくる力がどれだけ必要とされるかだろう。


 小林さんはサブタイトルに「新聞・雑誌が死ぬ前に」とされているように、本は死滅しにくいという立場だ。本来、自在に変容し、他と結びつきあえることに真骨頂があるウェブの世界は、まとまった小宇宙をつくっても、利点を活かしにくいと言うわけだ。


 そのあたりは、さすが両方経験しているだけあって分かっている、と思うのだが、この本全体にはなじめない。それこそ、小林さんの小宇宙に入っていけない。


 というのも、この本は、そこでいかに儲けるか、しか書いていないからだ。
 しかも小さくてもいかに大きく儲けるか、という精神に貫かれている。


 もちろん、トンデモ本ではないので、ウェブに乗り出せば儲かるというような甘い話が書かれているわけではない。


 赤字ならほかのバイトをして、それをやり続ける。始めたら何に縋ってでも継続させ、生き残ることだという。怨念のような非合理さ、しつこさが必要だと予防線が張ってある。


 その昔、「土方のバイトをして出版を続ける」なんて話を聞いたことがある。
 実際、信念をもってそのような出版を続けていた人はいたし、その重さを知らずに、憧れたところもあった。


 だが、いずれは大儲け、というような理由は、当時は考えもしなかった。


 まあ、カタカナ語が多すぎて、内容が半分も分からなかったということもあるな。入っていけないのは。
 分からんものは分からん、と言えるようになったのは進歩だ。きっと。



 実は、この日記は2月頃に書いて、アップするのを忘れていたのだが、震災を経て、電子書籍の世界はその可能性を試されると思う。


 一つには本という体裁のもつ速報性のなさが、こういう時はなんとももどかしい。
 そのうえ、紙やインクが品薄になっており、価格の高騰や入手困難すら起きるかもしれない。


 だから、WEB、電子書籍、そして紙による本の特質をうまく生かして、それぞれが役割を果たす道を探したい。


 昨年の電子書籍ブームは、今のところマスコミ等の空騒ぎに終わっていて、インフラの立ち上がりは難航している。グーグルもアマゾンも日本での展開は未定としているし、雨後の竹の子のように参入の声をあげた各社も、展開が遅い。


 せっかく力が求められているときに準備が整っていないのは、いかにも残念だ。


(おわり)



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小林弘人『新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に