佐藤喜子光、椎川忍編著『地域旅と地域力創造〜観光振興とIT活用のポイント〜』


 震災&原発事故とまちづくりについてインタビューをして回っていたら、ブログを書く時間が取れなくなった。
 そろそろ復活したいのだけど、インタビューの整理も進まない・・・。
 というわけで、震災前に書いたまま出しそびれていた僕の本の紹介です。

企画の経緯


 この本はいろいろあって、難産だったが、最初から気に入っていたのは「体感型ショールームとしての地域旅」という考え方だ。


 地域再生のためには、地域が誇りを取り戻し、地域内経済循環率を高めるとともに、少しは地域外からのお金の流れも作らなければならない。
 前者は、地産地消でも良いし、東京に観光に行くかわりに地元で楽しんでもらっても良い。ようは地域内の努力でなんとかなる部分が相当残されている。


 しかし後者は、域外に輸出しなければならない。
 では、というので、無名の地域の無名の産品を市場に出しても、相手にしてもらえないだろう。企画力はもちろん、すぐれた広報力と僥倖に恵まれなければ難しい。


 だからといって、各地域の産物がつまらないわけではない。全国ブランドにはなりえなくても、それなりにファンがついても不思議はない一品が無数にある。ようは出会いである。


 そこで、地域に来て下さった方に、地域をまるごと体感していただき、ファンになっていただくことは、消費者一人一人とつながっていく、もっとも効果的な手段に違いない。


 地域の産品も、旅行中に食べてもらったり、持ち帰ってもらったりはもちろんだが、幸いインターネットのおかげで、帰ってからでも欲しいとなれば、全国どこからでも注文できる。
 クレジット決裁などの構築も、外部サービスを使えば、数十万円もかからない。個々の小さなお店では負担が大きくても、地域の共通のプラットフォームがあれば、きわめて容易だ。宅配も地域でまとまって契約すれば、ぐっと安く使える。


 このように地域を丸ごと体感してもらえば、単に旅行業界だけではなく、農林漁業や関連の加工産業、商業など、地域全体が潤うことになる。それが地域旅だ。


 そういう意味でも地域づくりと地域旅は、とても相性が良い。
 そんなこともあって、最後には前総務省地域力創造審議官の椎川忍さんが編者に加わり、地域力創造を前面に押しだすことになった。

阿蘇地域振興デザインセンター

 本書は、前半で「地域のファンをつくる地域旅の方法」をまとめ、後半が「事例紹介」となっている。集客からアフターケアにいたるIT活用についても、その基本的な仕組みを前半で紹介したうえで、後半で先進事例を紹介している。


 事例のなかには、まだ地域旅に取り組み始めたばかりのところもあれば、もう十年以上の実績を積み上げている地域もある。特に大山と阿蘇は観光まちづくりのプラットフォームが機能し、成果が花開こうとしている。


 たとえば阿蘇では、地域振興・観光振興に広域的に取り組み、地域が一体となって自発的な地域づくりを進めることを目的として生まれた(財)阿蘇地域振興デザインセンターが「スローな阿蘇づくり」というコンセプトを2002年に打ち出し、地域づくり型観光に取り組んでいる。
 当時、課題として認識されていたのは、1)市町村の利害を超えた広域回遊への誘導、2)観光ニーズの変化への対応、3)幹線道路の渋滞解消、4)広域連携による阿蘇の地域づくりの方向性、だったという。


 そのため1)回遊のコースづくり、2)もてなしの人づくり、3)パークアンドライドサイクルトレイン、循環バスといった公共交通の体系づくりに取り組んだ。このなかで「ゆっくり・のんびり阿蘇大陸」というコンセプトを地域づくりの核に据えていったという。


 ニーズの変化に対応したツアーとして「阿蘇カルデラツーリズム」が開発され、阿蘇の自然を生かしたエコツアーはもちろんだが、同時に、商店街での食べ歩きや、農家での民泊、軒先でのおばあちゃんとの会話、農家レストランなども生み出された。注目事例として良く取り上げられる「おとなの長旅」の阿蘇版もこの一環だ。


 もう一つ特筆すべきは情報発信だろう。印刷媒体やFMラジオ、携帯電話サイトなどが積極的に活用されている。


 こういった蓄積の集大成として、次のステップへの土台となるべく「阿蘇ゆるっと博」が、3月12日から開かれている。
 特に新しい施設等は作らず、地域全体を博覧会場と見立て、阿蘇の新しい楽しみ方を提案し、その受け入れの仕組みを完成させる博覧会だという。


 特に注目すべきは「旅の市場」だろう。
 ここでは200以上の着地型のプログラムの予約はもちろん、さまざまなサービスをICT技術を介して受けることができる。


 ただし、機械だよりではない。
 ビデオ通話を通して50人のコンシェルジュに相談できるシステムで、滞在期間や要望を相談すれば、好きなものを好きなだけカスタマイズして提案してくれるという。


 ICTに慣れた若い人ならともかく、僕のように機械に弱い人間には、システムに慣れるまでがとてもしんどい。だいち、楽しみにいくのに、その場、その場で、訳のわからない機械に振り回されるのはうんざりだ。だから機械ではなく、人も対応してくれるのは、とても有り難い。


 なお、このシステムは旅行後の産直品の購入などにも対応している。


 実は本書の前半で観光振興に必要なICTシステムとして、このような機能を備えた「ふるさと楽市楽座」構想が示されている。その具体化のため、地域総合整備財団が「e-地域資源活用事業」を開発しており、阿蘇にはそのひな形が導入されているという。


 阿蘇での実験を踏まえて、より使いやすくなったシステムが、地域に無料で提供される日も近いそうだ。


 大いに期待したい。

○関連イベント
 地域旅で地域力創造セミナー in 京都 4。28 午後6時半
 http://www.gakugei-pub.jp/cho_eve/1104tita/index.htm


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 佐藤喜子光・椎川忍『地域旅で地域力創造―観光振興とIT活用のポイント