「産業の復興が地域の再生に不可欠」(関満博さん)


 『農と食のフロンティア』を書いて頂いた関満博さんは、中小企業の振興の研究では第1人者だ。
 その関さんは地震津波の日に釜石で「いわて三陸発! 海の産業創造セミナー」に参加されていた。
 幸いご無事だったが、『日経トップリーダー』に書かれた記事をおくっていただいたので、紹介したい。


 関さんの主張は「産業の復興が地域の再生に不可欠」という一言に尽きる。
 建築・都市計画系のまちづくりでは、道路などのインフラ復興、そして住まいなど生活復興には力を入れるが、概して産業には弱い。行政もマスコミも、まずは生活を重視する。
 だから、中小企業の場合は話を聞いてくれることさえない場合があるという。


 だが、住宅地の復興と異なり、農村も漁村も、産業が再生しないと生活が成り立たない。


 阪神大震災で言えば、長田区が同様の問題が顕著に出た地区だった。
 当初は僕もシューズ産業の被災状況などをお聞きし、仮工場やシューズ産業の再生を話し合う集会に何度か出た記憶がある。たしか産業系の専門家も出ておられた。
 だが、その後、僕の周辺からは産業の話の陰が薄くなっていった。


 もちろん取り組みがなされなかった訳ではない。
 久保さんの『まちづくり協議会とまちづくり提案』は長田の区画整理を中心に書かれた本だが、まちづくり協議会による産業復興への取り組みについても1章をさかれている。


 それによると95年から2001年には産業観光構想がつくられ、シューズプラザが建設された。またアジアギャラリー構想からはアジアギャラリー神戸が造られた。


 2001年から2005年にかけては、第二次産業観光計画が造られ、一次計画で実現できたこと、出来なかったこと、できたがうまく動いていないことが検証され、解決が目指された。


 しかし、十分な成果をあげられかったという。


 問題点として、被災者の建築再建を進めるために街区内道路の整備が優先され、施設周辺のコミュニティ道路整備が遅れたこと、産業構造を変革し消費者と向かい合う地域の製造業へ脱皮する力が産業側に弱かったことを久保さんは上げている。


 では、今回はどうか?
 関さんによれば、釜石では新日鐵の城下町だったころのストックを生かし、もう一つの基幹産業だった水産資源をベースに新しい取り組みが生まれていたという。
 たとえば魚類残滓から機能性物質を抽出して健康食品メーカーに販売するリサイクル事業や、チョウザメを飼育してのキャビアの生産などそれだ。


 三陸全般で見た場合、高齢化などの問題は抱えつつも、若い人々も参加し、安全・安心を重視した商品作りが漁業や農業で始まっていた。また宮古のコネクターとその金型産業など、日本中から難易度の高い注文が集まっていたところもあるという。


 残念だが、ハードをつくれば、成長力が傷跡を押し隠してくれるような時代ではない。
 こうした新しい芽が再生し、力強く育っていってくれればと思う。


 いま様々なところが調査や支援に動き出している。
 大小のいろいろな動きが出てくるのは頼もしいが、ハード、ソフトを超えて連携してやって欲しい。
 もちろん僕もそのために微力を尽くしたい。


○リンク
・久保光弘『まちづくり協議会とまちづくり提案』(アマゾン)
無料PDF http://www.gakugei-pub.jp/higasi/10kubo.htm


関満博「農」と「食」のフロンティア―中山間地域から元気を学ぶ