蓑原敬編著『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』
ほんとは大方さんのセミナーの紹介をする前に、アップする筈だったのだが、すっかり忘れていた本体の紹介。
順番が逆になって、随分経ってしまったけど、アップします。
どんな本か
この本は2000年に出版した『都市計画の挑戦』の執筆者に、蓑原さんに呼びかけてもらって書いて頂いたものだ。
2000年当時もそうそうたるメンバーだったが、10年経って、押しも押されぬ斯界の権威という感じになった方々ばかりである。
だから大人しく中庸になったかというと全く違う。
大方潤一郎さんのインタビューにあるように、前著では近代都市計画をなんとか立て直そうという体制内改革派といったスタンスだったが、こんどはもう近代都市計画は脱構築しかないという方向へ大きく変わっている。
加えて狭い意味では都市計画に入らない、交通計画や福祉の方にも参加いただけたことが大きい。また前著にあったアメリカの事例紹介やNPMといった外来の考え方の章がなくなり、オリジナルな議論、自らの経験に立脚した議論だけになっている。
そういう意味でも、そのエポックをつくる論集に違いない。
共通の問題意識
蓑原さんは序章で、時代が大きく変わってきていること、にもかかわらず日本の都市計画や土地利用法制は成長時代の枠組みを抜け出せないことを指摘し、議論のための基本的な問題意識の共有を提起している。
その内容は『地域主権で始まる本当の都市計画・まちづくり』を深められ、簡潔にされたものだ。
掻い摘んで説明しよう。
1)街や村の居住環境は、住民の合意に基づく、場所に応じたルールで守るという、地域主権の原則。
中央集権的な縦割り構造の打破と民主的な地方政府の確立。補完性の原理による徹底した分権化だ。
2)広域的な居住空間展開の原則
都市と農村の生活は平準化して、人々の生活圏は大きく拡散している。
いまや都市と農村を線引きするといった手法では機能しない。
全国土を都市田園計画法でおおいい、そのもとに都市的、農林業的、経済産業的、自然環境保護的な様々な計画と事業手法を、広域レベルで基礎自治体が展開できるようにする。
3)近隣環境管理の原則
近隣コミュニティレベルで人と人、人と環境との関係を新たに結び直す必要がある。
現在の敷地単位の事前確定的な規制では事業により近隣が壊れてしまう。公共、民間、そして一人一人の事業が、近隣を強化し、維持更新する方向に向くような仕組みが必要だ。
4)建築物を社会的な資産とみなす原則
建築物の単体基準においても、同世代の流通資産として、通世代の長寿命の流通資産として形成していくように社会的な管理を厳格化する。
もっと具体的な問いかけが蓑原さんへの2回目のインタビューに参考資料として載せている「日本の街づくりで、今、考えるべきこと」にまとめられている。その前半をお読み頂けると分かりやすい。
そうはいっても「人と人との結びつきを壊してきたのが都市計画だ」と思っている都市計画嫌いの人にとっては、「また、言っている」という感じかもしれない。
まして全国土を都市田園計画で覆い、あらゆる政策を動員しようなんて、国交省の新たな野望にしか見えないかもしれないし(※1)、逆に規制緩和派の人にとってみれば、叩きつぶした土地利用規制がゾンビのように地方というお墓から出てくるというイメージだろうか。
これに全面的に反論するのは僕の能力を超えているが、一つ考えて欲しいのは、人間はソフトだけでは生きていけないということだ。本書で広井良典さんが書いているように、「人々の関係性に関する意識と、街や地域の空間構造というものは相互に影響し合っている」のであり、いわば「コミュニティ醸成型の空間」と「コミュニティ破壊型の空間」という「ソフトとハードを融合した視点がこれからの街づくりでは重要」なのだ。
そして広井さんが言うように中心部が歩いて暮らせることは、それ自体が福祉的なのだし、生産のコミュニティと生活のコミュニティがある程度重なっていることが街なかのコミュニティ感覚の基盤となりうるのだが、それらは市場任せで作られたわけではなく、土地所有のあり方も含め、政府や公的部門の政策意図が大きく作用している。
残念ながら近代都市計画は、これらについては逆行していた。だから僕もついついハードや空間と聞くと眉に唾を付けたくなる。だが、安易にそういった政策を廃棄してしまえば良いわけではない。ソフトとハードを融合し、また市場が良い方向に機能するようなルールに変えていかなければならないのではないか。空間計画嫌いは、結局、空間に反逆されると思うが、いかがだろう。
藤賀雅人さんのブログから
名古屋駅の本屋で見つけてすぐさま購入し、ゆっくりとだけど現在読み進めている本です。
この本は「都市計画の挑戦-新しい公共性を求めて」の筆者が中心となり都市計画の新たな段階に向けての問題提起が行われています。タイトルに見られるようにどの筆者も(まだすべてを読み終わっていませんが…)社会構造、現行制度、グローバルな位置づけを含めた広義の視点から、現在の都市計画を根本的な見直しを試みていて、文面からもひしひしとその熱意(思い)が伝わってくる。そして、専門性からくる視点は違えど、それぞれが提示している「都市計画」の方向性は?地域主権(協働)?を主眼に置いた制度展開と仕組みの構築への動きとして一方を示されています。
最前線で戦ってきた諸先生方がこれほどまでに熱意に満ちた文体で都市計画を整理する事も珍しいし、抜本的に見直しているからこそ、私のような知識の不十分な者でも問題意識を共有しやすい。恐れ多いが、著者達のこのような姿勢(このような著書を執筆しようとする姿勢)を非常にうれしく思うと同時に、都市計画を学ぶ若い世代は必読書としてこの熱意を受け取らなくては失礼だろう。
学生のみなさんにはまだ、わからない部分も多いだろうけど、是非、手にとって欲しい一冊。
目次・都市計画〜根底から見なおし新たな挑戦へ
第1編 都市計画を根底から見なおす
|
関連資料
○2011.03.10連続セミナー第1回・大方潤一郎さん他
○2010.09.06 蓑原敬さん京都セミナー(電子版まちづくり新書準備中)
○蓑原敬さんインタビュー(草稿時)
○蓑原敬さんインタビュー(出版時)
○佐藤滋さんインタビュー
○大方潤一郎さんインタビュー
○担当編集者のブログ(草稿時)
○アマゾンリンク
蓑原敬編著、西村幸夫、佐藤滋ほか著『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』
蓑原敬、佐藤滋ほか『都市計画の挑戦―新しい公共性を求めて』(学芸出版社、2000)